アルプスの処女直江   U








とっととズラかった美弥は、マジに高耶を置いてけぼりにして金儲けの旅に出てしまった。
残された哀れ兄は、今更どーしょもナイ。
どっか怖いチネッテ譲に連れられて、一応あてがわれた部屋へ向かったのだ。
ドキドキドキドキ
こーんなお金持ち仕様な家で、一体どんな部屋なんだろ。
ちょっとばかしワクワクしてた高耶は、立派なオバカさんだ。
「コチラです」
言葉こそ丁重だけど、美弥が言った通りこのチネッテ譲はカンペキ高耶をバカにしてるのがアリアリだ。
しかもソレ、隠してないし。
「あの、さ……」
ココはいっちょ、ガツン、って言ってやるぅ!が、
「何か?」
チラ
「……えと……何でもないデス……はい」
「そうですか?」
薄い横目の怖さはもー悪魔級で、オバカさんに太刀打ち出来るモンじゃあない。
トボトボ部屋に入るってドアを閉めて、やっと一息吐けたのだった。
バフン
「わわッ?!」
ダイヴしたベッドは、高級仕様のスプリングで、途端に躯がポヨポヨ跳ねて、高耶は慌てて体制を整える。
「はぁ〜ビックリ〜」
今度は普通に、バフン、ってやって、ブランケットに顔を埋めた。
柔らかいそれは普通にイイ匂いがしたけど、違うのだ。
千秋のオンジの作ってくれた干草のベッドの、あの青臭い独特の匂いがしない。
”青臭い”のに慣れまくってる高耶にとって、それが無いと物足りない。
しかも、
「……ゴヨーゼフゥ…………」
クスン、と鼻を啜ってみる。
あのアホ犬は、いつも屋根裏の高耶の部屋に勝手に入ってきて、ベッドの上に乗ってくるのだ。
あの巨体でどーやって屋根裏に上る階段を登ってくんのかは、今だ謎なんだけど。
ちなみに高耶は現場を、まだ見た事無い。
もしかしたら、サーカス犬かもしれない、って常々疑ってる高耶だった。
そのアホ犬は、やっぱしアホだった。
何がいいのか、高耶の股間に顔ツッ込んで寝るのが好きなのだ。
どーも落ち着くらしくって、デカイ顔をチッコイチンコの上の乗っけて、スピスピ爆睡。
なもんで、その度に高耶は足が痺れるやら、チンチンに血が回んなくなるやらで、イイ迷惑だった。
だけど、今はをの重みが恋しい。
「……アホ犬〜」
クスン
ズビズビ
そのまんま、疲れ切った高耶は眠り込んでしまったのだった。













ゼーゼーマン家は、兎に角デカかった。
早速高耶が遭難したのは、チネッテ譲が案内してくれた部屋からトイレットへ行って帰りの出来事だった。
居眠りのつもりだったのに、目が覚めたらもー真夜中っぽい。
当ッたり前だけど飯抜きだから、お腹もグーグーだ。
「って言うか……普通起こすよな?…………」
ブチブチ文句言う相手は、頭ん中のホログラムチネッテ譲&ロッテンマイ綾子。
わざとだ、絶対わざとだよ!あの2人ったら!
顔からしていぢわる、っぽいもんな、うん。
長い廊下には間隔を置いて灯りがあるんで、薄暗いけど普通に歩ける。
トイレットに行った時運良く、って言うよか奇跡的にスンナリ到着出来たんで、高耶はスッカリキッパリ忘れてる。
元々トイレットの場所なんか、知らなかった事に。
だから当然、
「…………ありゃ?」
ここ、ドコ?
遭難は、忘れた頃に来て手遅れなモノ。
だって気付くのって、手遅れ状態になってからだし。
「……ど、しよ…………」
クスン
知らない家、それも昨日来たばっか、しかもいぢわるっぽいヒトワンサカ。
心細さに高耶が泣きたくなっても、まぁそんなには罪は無い。
暗いよ怖いよ
広いから余計。
元々長い廊下が、無駄に誇張されて果てしない!長さに見えてきた。
「ぅわーん……美弥〜千秋オンジ〜ペーター武藤〜、アホ犬〜」
「誰?」
「!」
歩き疲れて涙と一緒に鼻水もダラダラになった頃、だった、薄暗い向こうから声が聞こえてきたのは。
「誰かいるんですか?」
人だ!
人がいる!
「オレ!いるよ!」
意味不明に叫びながら、バタバタ高耶は声の方に走りだす。
何時もの高耶だったら、怖いもの大ッ嫌い!!!だ
怨将とか憑依霊とか換生者とか!
皆皆、コワイコワイ
なんでケツ巻くって逃げ出すんだけど、この場合はお山にユキコちゃん、疲れに”かわいいの”、崖っぷちに角のダンナ、ってもんだった。
嬉々!って感じで数メートルダッシュすると、そこにいた声の主に、高耶は足をピタッと止めた。
「あ、っと…………」
オタオタしてる高耶の前に、声の主はニッコリ。
「こんばんわ」
「こ、んばんわ…………」
「どうかしたんですか?泣いてるの?」
「…………だって…………」
優しい声で聞かれて、ホッとしたのが一気にキた。
何ってったって、メチャメチャ心細かったのだ。
「……オ、レ……グス……部屋、分かんなく……ッ……ヒック
いきなし現れてビービー泣き出す高耶に、声の主は困った顔で笑う。
「もー大丈夫、オレが連れてってあげるから」
「……マジ?」
「ええ、だからもー泣かないで」
グシ……分かった……」
ズビズビ
鼻すすってるけど泣き止んだ高耶に、ホッとしたみたいに笑う。
「で、あなた誰?」
「オレ?オレ高耶だよ、あんたこそ誰?」
「オレは直江、です」
「直江?ココんチの人?」
「そう、ココんチの人、です」
「そなの?じゃあ、チネッテ譲とかロッテンマイ綾子とか知ってる?」
「ええ、勿論」
「ふーん…………」
直江、って言った男はチメッテ譲とかと違って、優しそうだ。
だから高耶もリラックスして、一目見た時から気になってた事を聞いてみる。
「あのさ」
「何?」
「足、歩けないの?」
そう、直江は車椅子に座っていたのだ。
青い車椅子に、青い膝掛け。
「いいえ」
「え?」
歩けなく、ない?
「じゃあ何で、車椅子座ってんの?」
????な高耶の疑問ももっともだ。
キョトン、って高耶が聞くと、直江は少し哀しそーな顔になる。
だから高耶も、ワタワタ慌てちゃうのだ。
「あ、あの……あ、っと……」
「いいんですよ……高耶さんは優しいですね」
「ぁう……」
「オレはね、チンコが勃たないんです」
「…………え?」
「だから、勃たないんですよ」
「……………………車椅子……」
高耶は、目がグルグルだ。
「チンコが勃たないと…………車椅子?」
「なんですそれがしきたり、なんですよ」
「………………しきたり………………」
チンコ勃たないと、車椅子。
「へー何かスゲー」
何が一体スゴいのか。
マジに感心してる高耶は、お山一番のおばかさんと、と言えよう。









ノベル  モドル  ツヅク



感動の出会い