GOOD MORNINIG!

                        HAPPENING 2
               






高耶パパとの口論で、とうとうキレた高耶はそのまま家を飛び出した。


”チックショーッ!!!何でオレと直江の仲を邪魔すんだ〜っ!!”

すっかり”引き離された悲劇の恋人”気分な高耶の中では、直江は恋人に確定してある。
感情のままに突っ走り、辿り付いたのは直江との待ち合わせの駅前広場。

家から走り通しだったので、ベンチに座ると息は切れ切れだ。
何とかそれが収まったり時計を見ると、待ち合わせの時間まで、まだ一時間もあった。

「・・・・なおえ・・・・早く来いよ・・・・・」

ポツン、と零れた言葉は、弱々しい。
高耶だって不安なのだ。
あんな風に家を飛び出して、帰った時どうしよー、って。

高耶の親にバレてるんだから、きっと直江の方もそうなのだろう。

「どーしよ・・・・・・」

もしかしたら、と思う。
直江は親の言う通り、高耶との付き合いを一切止めてしまうかもしれない。
そんな事を考えていると、何だかどんどん泣きたくなってくる。

「・・・・っ・・・」

ポタッ、とジーンズに染みが出来る。

「高耶さん?」

名前を呼ばれて顔を上げた高耶に、直江は目を丸くした。
「た、高耶さん?!どうしたんですか?何かあったんですかっ!!」

まだ時間まで間があるんで、当分来ないと思っていた直江の登場に、高耶は驚いて暫くボーッと顔を見詰めてしまったが、優しい声と気使う表情に、一気に気が緩んでしまった。

「なおえ〜〜っ!!」

胸に飛び込んでわんわん泣き出す愛しい人に、直江は戸惑いながらも回した手で背中を優しく撫でて懸命にあやしたのだった。















                              ***












「ここどこ?」

中々泣き止まない高耶を何とかあやして車に乗せ、連れて来たのは閑静な住宅街にあるまだ新築と言えるマンションだった。

「オレの家ですよ」
「・・・・・・・ふ〜ん・・・・・てっ!えぇ〜?!!」

何気に聞き流した高耶は、言葉の意味を理解するとビックリして大声を上げた。

”家?家って?!!じゃあオレんの隣にあんのはっ?!!”

思いっ切り顔に?マークを浮かべてしまった高耶に苦笑した直江は、分かる様に説明しようとゆっくり話し出した。それに、高耶は益々驚愕を増す事になってしまったのだが。

「実は、家を出ようかと思いまして」
「!」

直江もかなり悩んだのだ。

好きなのに、思いを伝えられない、そんな相手が目と鼻の先に住んでいる状況は、結構辛いものがある。
高耶の為にも自分の為にも、少し距離を置く方が良いと思ったのだ。
幸い経済的には、何の損傷も無い。

「今からでも遅い位ですよ、自立するには」

高耶はと言うと、ショックで呆然自失状態だ。
直江が家を出て一人暮らしをする、と言う事は・・・・・・・・・・

”もう、朝一緒にいらんなくなっちゃうってコトじゃんかっ!!!”
「・・・・そ・・・・ん、な・・・・・・」

高耶にとって、死刑宣告に等しい、それ。
収まった筈の涙が、再び盛り上がってくる。

「たっ?!!高耶さんっ!!」

静かに涙をポロポロ零す高耶に、直江は思いっ切り慌てて側に寄った。
「い、一体何があったんですか?さっきも泣いていましたよね、どうしたんですか?オレに話してもらえませんか?」

頬の涙を指で拭ってやるが、涙は後から後から流れて来て切りがない。
「・・・・・
っく・・・・・ひっ・・・く・・・・・・・」
この状態では、再び落ち着くまで待った方がいいだろう。
そう思い、直江はソファーに座る高耶前に跪き、あやす様に、しかし内心ドキドキしながら胸に抱き込んだのだった。

「・・・・
・ひっく・・・・・っく・・・・・」

高耶のしゃくりあげる声が、段々と小さくなり”泣き顔も可愛いな”なんて考えていた直江は、恐る恐る声を掛けてみる事にする。

「高耶さん、大丈夫?」
無言で頷く高耶に、取り敢えず胸を撫で下ろした。

「話して、くれますね?」
真剣に自分を心配する直江の眼差しに、高耶はポツリポツリ話し出した。

「父さんに、バレたんだ・・・・・・・直江と一緒に歩いたり話したりしてる事・・・・・・」
直江は、成る程、と思う。
思えば今までバレまかった方がおかしいのだ。別段、驚きもしない。

「・・・・・・で・・・・もう、直江に近付いちゃダメ。だって・・・・・・・」

正確には、それだけでは無い。
直江は家を出て、遠ざかっていってしまうのが泣いてしまった大きな要因だ。

高耶は内心酷く迷っていた。
このままじゃ、直江とはどんどん疎遠になっていくのは目に見えている。
ただのお隣さん、が引っ越してもわざわざ会う、なんて事はどう考えてもおかしい。

それに・・・・・・・

”玉砕しても、直江と顔、合わさないし・・・・・・・”
もしかして、これは告白の、最後のチャンスじゃないだろうか。

告白して、ダメ、だったら、高耶が隣に住んでいれば、優しい直江は酷く気を使うに決まっている。

「・・・・俺達・・・もう会えなくなっちゃうんだろ?直江も引越しちゃうし・・・・・」
「そんな事ある訳無いでしょ?オレはあんな昔からの慣習なんてバカバカしいと思います、高耶さんだってそうな筈です」
でしょ?と訊かれて、高耶は頷く。

「オレは高耶さんが好きですから、これからもずっと会って・・・・一緒に話したり・・・・・したいと思っています」

直江は”好き”にドキドキしながら重要な意味を込めたのだが、高耶にはきっとだたの友情、と取られているだろう。

”好き?!!”
高耶も思った。
きっとこの言葉に、直江は大した意味なんか込めてないって。
でも、この状況で、高耶の決心を後押しするには十分だった。

「・・・・直江・・・オレの事、好き?」
「好き、ですよ」
「・・・・・・オレも・・・・さ、直江、好きなんだけど・・・・・」

突然の高耶の告白に、直江は内心踊り出したい心境だったが、それがただの友情と思い、必死に落ち着きを取り繕う。

「嬉しいですよ」
「っ・・・・!」

直江の表情に、全然伝わって無い事を悟った高耶は、こうなったら後には引けない、と覚悟を決める。

「違うっ!!!」

「高耶さん?!!」

突然立ち上がり大声を出した高耶に、直江は驚いてオロオロしてしまう。
「・・・・一体・・・・・・・」

「だからっ!!好き、なんだよっ!!」

リビング中に響き渡る大音量でそう叫んだと思うと、高耶は直江の胸の中に力任せに飛び込んだ。

その勢いに、高耶を抱きしめたまま仰向けに倒れ込んだ直江は、呆然と、でも無意識に背中に回した手に、力を込める。

”これって・・・・これって、もしか、して・・・・・・・・”

仰向けに倒れた直江に圧し掛かる形でしがみ付く高耶は、何も言わない。
子供にここまで言わせてしまったずるい大人は、ここへきてやっと覚悟を決めた様だ。

「・・・・・高耶さん・・・・・・」
静かに声を掛けると、高耶の細い肩は目に見えてビクッ、と揺れる。

「すみません」
「っ?!!」

そんな直江の言葉をどう取ったのか、高耶の顔かある部分に濡れた感触が伝わる。
直江は咄嗟に、自分の言葉が誤解を招いた事を悟った。

「違うんですっ!!あなたにここまで言わせてしまって・・・本当はオレの方から言わなくっちゃいけないのに」

「?」
直江の真意を探ろうと、高耶は涙に濡れた顔を上げ、潤んだ瞳で男の目を覗き込む。
そんな高耶の仕草に、直江は沸き上がる愛情と欲情を必死で押さえ込んだ。

「・・・・・好き、ですよ・・・・・あなたが同じ意味で言ってくれた、と思っていいですか?」
「同じ?」
ええ、と流れる涙を吸い取る様に、頬に唇を寄せられて、高耶は真っ赤になった。

「同じ、意味・・・・・」
何処か呆然と呟く高耶に、直江は今まで見た事も無い、掛値無しの笑顔をくれる。
高耶もそれに釣られたのか、輝く様な笑顔を見せた。

「・・・・じゃあさ・・・・あの、さ・・・・・・キス、とかして、イイ?」
真っ赤な顔と消えそうな声。

直江は破顔し、
「オレがキスしたいのも、キスしていいのも高耶さんだけです」
そう言って、今度こそ高耶に何も言わせない様、自分から唇を寄せていったのだった・・・・・・・















                            ***











「ええ〜っ?!!じゃあ、直江もずっと前からオレもコト好きだったワケ?」
困った様に笑い、直江が頷く。

そんな嬉しい様な悔しいよ様な事実を告げられて、高耶はそれこそ喜んでいいのか怒っていいのか分からなくなっていた。

しかし、ここはやっぱり今後の為に、
「テメェ!何でそーゆー大事な事、早く言わなねーんだよっ!オレが!オレがどんだけ・・・・・・」

初めの勢いが段々と無くなり、最後には嬉しさと悔しさで感極まった高耶は泣き出してしまった。
我ながら今日はよく泣くなー、と思ったが、出て来るモンは仕方無い。

直江の方も、ずっと高耶を悩ませ、結局初めに言わせてしまった事に、ヒジョーに負い目がある。
だから、ここはもう、平謝りだ。

「すっ!すいませんっ!!オレが早くハッキリしないからあなたをこんなに苦しめてしまって・・・・許して下さい、これからはもう、こんな事無い様に、しっかりしますっ!」

この時既に、二人の位置関係は決定した、と言ってイイだろう。
って、言っても、そんなモン、元々なんだけど。

「・・・・・・・腹、減った・・・・・・」
涙目で睨まれて、クラッときながら慌て、それと同時にニヤける、という器用な事をやってのけた直江は、いそいそと当初の計画通り、高耶とデートするする為に家を出た。






新宿のデパートの駐車場に車を入れると、まずは腹ごしらえ、と伊勢丹にあるイタリアンレストランに入る。
パクパクと、皿片付けていく高耶を見ながら、直江は信じられない幸せに浸っていた。
まさかこんな展開・・・・・長年の思いが叶う・・・・・になるなんて、朝家を出た時は思いもしなかった。
幸せ過ぎる誤算に、顔のデッサンは自然と緩む。

「美味しいですか?」
「うん!このピザ、スッゲー生地が美味い」

恋人(!)の幸せそうな姿は、直江を天にも上る心地のさせてくれる。
しかし、デザートが運ばれて来た頃には、高耶の表情に段々陰りが見えて来た。
それでも、口へ運ぶ手のペースは落ちないトコロが、高耶だ。

「・・・・どーしよ・・・・父さんにバレちゃったし・・・・・・」
ライムのシャーベットを飲み込みながら、ポツリと言う。

「・・・・高耶さん・・・・・・」
肩を落とした様子は、直江の保護欲を刺激するのに十分だった。
”あぁっ!まるで新宿の路上で煙草を握り締めながら、寒さに震えているウサギの様だっ!オレが守ってやらなければっ!!”

「高耶さん、オレがあなたのお父さんに話します」
「えぇっ?!!」

キッパリ、ハッキリ言い切った直江に、高耶は驚きの余り、暫し言葉を無くす。

良く考えれば男が”お嬢さんを下さいっ!”って言うんじゃあるまいし、ただの友達、が親に挨拶するだろうか?
でも・・・・・

”嬉しいかも・・・・”
直江の真剣な思いが伝わって、高耶は酷く幸せな気分になった。
しかし、不安要素が消える訳じゃ無い。

「ダメ、って言ったら?」

もし許してくれないなら、来週引越す直江のマンションにシケ込んじゃおうと、企む。
でも、直江の答えは、

「イイ、って言ってくれるまで、話します」

「なほへ〜・・・・」

恋人の頼り甲斐のある姿に、高耶はうっとり、シャーベットが溶けるのも忘れて魅入ってしまったのだった。












 
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甘い、と思って書いてるんですが、これって甘いですか?誰か教えて・・・





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