GOOD MORNINIG!
HAPPENING 5
「母さん?」
「お母さん?」
パパと高耶のビックリ声が、ハモる。
直江は”流石オヤコ”とか思った。
「あなた、何さっきからグダグダ下らないコト、言っているの?自分だって、馬鹿馬鹿しいって分かってるクセに」
「なっ、何をっ?!!」
さっきまでズーっと黙ってた、高耶ママの機関銃の如くポンポン飛び出す台詞達に、パパだけじゃなく、高耶も直江も目を真ん丸にしちゃってる。
「そー言えば、あなたこの前言ってたわよね、こんな風習何時まで続くんだ、って」
覚えがバリバリあるらしいパパは、ギクゥ、って顔を強張らしてしまった。
窮地に陥った高耶パパが、何とか反撃しようと口を開いた時だった。
ピンポーン
玄関から、誰かの訪問を示すベルが鳴った。
”こんな時間に誰だ?”
高耶の疑問が分かった直江も、一緒になって首を傾げる。
「珍しいですね、こんな時間に」
「うん、でも母さん、誰か来るって分かってたみたいだったじゃん」
「そーですね・・・・・」
コソコソヒソヒソ顔、近付けて喋ってんのに、父親はそれ所じゃナイってカンジで、放っといてくれる。
高耶がアレ?って思ったのは、母はインターホンで相手も確かめないで、とっとと玄関に行ってしまったトコだ。
「へんな事になんなきゃイイけど・・・・・」
高耶の心からの言葉に、直江は重々しく頷いた。
「おっ!お母さんっ?!!」
高耶ママに伴われて入って来た人物を見て、直江は思わずソファーから腰を上げてしまう。
だって、そこにいたのは・・・・・
「・・・・・お母さん、何でここに・・・・・・」
呆然としたな直江の呟きが、その驚きを表してる。
バツが悪そーに突っ立ってる直江パパの前にデーンって、立ってる直江ママ、そのヒト、だった・・・・・・
「直江ぇ?!!」
高耶はもう、メチャメチャ驚いて、必死に直江の袖をクイクイ引っ張ってる。
目を真ん丸にして、下から覗き込んでくる高耶は、もうメチャメチャ可愛い!!
直江の手が、自然に高耶の肩に回り、不安そーな顔してる恋人を自分の胸に引き寄せた。
そんなオトコの行動に、ビックリしたのは高耶だ。
まさか、こんなトコで、そんなコトするなんて、
”恥ずかしいけど、嬉しいな〜”
嬉し恥ずかし、恋する乙女(?)は、恋人の腕の中でウットリ目を閉じた。
直江両親‘sの突然の登場に、暫し呆然状態だった高耶パパは、息子のそんな状態に、ハッと我に返る。
「高耶っ!!何してる、離れなさいっ!!!」
「ヤダよ〜ん」
そー言って益々ピトッてくっ付く高耶に、パパの血圧が一気に上がったらしい。
「高耶っ!!!」
ウォッホン!
わざとらしー咳払い。
その主、直江パパは、ムッツリ顔だ。
それと対照的なのは・・・・・・・
「今晩は、わざわざ来て下さってありがとうございますぅ〜」
「いいえぇ、こちらこそ、ウチのバカ息子がお邪魔しちゃって」
和気藹々、そんな言葉がピッタリな、ママ二人。
そんな二人を信じらんない顔で見てた高耶は、直江ママと目が合ってしまった。
条件反射で、ペコリとする。
「今晩は、高耶君」
にこやかに挨拶された高耶は、”はあ”って言っただけだ。
「高耶、チャンと挨拶しなさい」
まったく、ってブツブツ言ってる高耶ママに、直江ママの方は”イーんですよ”とか言う。
”何ィ?一体何が起こってんだぁ?!!!”
そんな混乱してる高耶を、直江ママは酷く優しい目で見てる。
それな直江ママに、高耶は恥ずかしくなって、益々俯いてしまった。
だが、高耶は気付いてナイ。
そんな様子は、酷く可愛らしく目に映るって事を。
高耶は妹と二人兄弟で、直江は4人兄弟の末っ子だ。
二人の年齢差+直江の一番上の兄は、高耶の親でもおかしくない年齢。
必然的に、高耶両親‘sより直江両親‘sの方が、ずっと年上になる。
直江のお母さんの優しい眼差しは、松本にいるおばあちゃんにとても良く似てて、懐かしいさを感じさせた。
優しい優しい、おばあちゃん。
「高耶君、信綱と、これからも仲良くしてやってね」
その台詞に、仰木家のリビングに集まった皆がビックリして目を丸くしてしまった、勿論、高耶ママを覗いて、なんだけど。
気拙いんだか、ホンワカしてんのか分かんない状況ン中で、漸く立ち直った高耶パパが口を開く。
「直江さん、どーゆーつおつもりだか知らないが、無責任な事を言っては困りますね、ウチの高耶はお宅の息子さんと付き合う気なんかナイんですから」
「父さんっ!!」
あんまりな勝手な台詞に、思わず高耶は立ち上がるが、それを制したのは何と、直江パパだった。
「高耶君、いいんだよ」
「はぁ?」
益々ワケ分かんない。
高耶の頭の回りには???マークがブンブン飛んでる。
直江も、そんな高耶を抱きしめてるしか、ナイ。
高耶ママに進められるまま、直江の両親は、高耶の隣、高耶パパの正面に座った。
「仰木さん、私は妻と違って、正直言うとまだまだ蟠りがあります。まあ当然ですね、400年以上も犬猿の仲だったんですから」
そう言って苦笑いすると、直江に何となく似てる事に、高耶は気付く。
「勿論です、妻や息子が何と言おうとそー簡単に認める訳にはいきませんな」
腕組をしてる高耶パパは、ムッとしつつ、同意する、っつー器用な技を披露する。
「しかし、続くものは、何時かは終わる」
「は?」
「だからですね、この機会にもう、意味の無い事は、止めにしよう、と」
この物分りの良さに慌てたのは、、勿論高耶の父親だ。
どーなってるんだ?この人は自分の味方(?)だったんじゃナイのか?
「直江さん、それはどーゆー意味ですか?」
「そのまんまの、意味です」
サラッて流されて、高耶の父は、こめかみをピクピクさせた。
「直江さん、あなた一体・・・・・・」
「お父さんだけね、悪者は」
それは言わないお約束、な台詞を、サラッと言った母親に、高耶は頭を抱えてしまった。
だって、そんなコト言えば、この頑固オヤジが益々意固地になっちゃうのは目に見えてるから。
「〜〜〜っうっるさ〜いっ!!!」
ホラ、やっぱし。
「母さんも、直江さんもっ!!いい加減にしなさいっ!!これは・・・・仰木家と直江家のコトは、昔から決まっている事だ、勿論、これからもっ!」
「勝手に決めんなよっ!そんな言うなら、一人でやってればイイじゃん、オレ達は止めるからさっ!!」
冷た〜い息子の発言に、パパの肩がガクッと落ちる。
「高耶・・・・・・・」
情け無い父の呟きにも、高耶はフンッて横を向く。
「高耶さん・・・・・・」
チョビット可哀相になった直江は、高耶を腕から離して顔を覗き込んだ。
そんな直江の言いたい事が分かった高耶は、何となくバツが悪くなりこれまた横を向いてしまう。
でも、だってさ、とかブツブツ言う事は、忘れない。
そして、何となくシーンとなったリビングに、恐る恐る顔を上げた高耶の目に映ったものは、自分を見てる皆(高耶パパを除く)の優しい目だった。
それに勇気付けられて、高耶は再度チャレンジする。
別に父親が何て言っても、直江と会うのは絶対止めないし、付き合うコトも続けるに決まってるけど、コソコソしたくないのだ。
だって、悪いコトしてる訳じゃナイんだし。
「父さん、オレ直江好きだからこれからも仲良くする。ダメって言っても絶対そーする」
キッパリ、静かに言い切った高耶に、高耶パパは目を見張った。
本当は判っているのだ、こんな何百年の負の遺産、なんか下らないモノだって。
でも、意地ってモンがあるし、ズッ続いた風習を自分の代で終わらせちゃうのもちょっと・・・・・・
パパの複雑な心境なんか知っちゃぁイナイバカムスコに、父はガックリ肩を落とした。
初めて見る息子の真剣さに、諦めを感じる。
「・・・・・・・・勝手にしなさいっ!!」
伝統の決り文句を言い放って、ドカドカリビングを出て行った高耶パパの後に残された5人は、思わず顔を見合わせてしまう。
「・・・・・何、アレ?」
「さあ・・・・・」
そんな状況なのに、高耶、直江を除く3人はニコニコしてる。
「良かったわね、高耶」
「へ?」
「お父さん、認めてくれたのよ」
「ほえ?あれがぁ?」
高耶がそー言うのも無理は無い。だって、どー見てもアレって”怒って出て行った図”じゃん。
高耶と直江は、不思議そーな顔になって高耶ママに答えを求めた。
ちなみに、直江の両親もちゃんと分かってるらしい。
「そーよ、散々今まで”ダメ”って言ってきたじゃない、だから今更面と向かって”イイ”なんて言えないのよ」
「・・・・なるほろ・・・・」
確かにそーだ。
高耶は小さい頃から何度となく言われ続けた台詞を思い出す。
『直江の家の人間は敵だ』
「私も大変だったのよ〜、この人説得するの」
直江ママは自分の夫を軽く睨にながら言う。
言われたパパは、頭カキカキ苦笑いだ。
「まあ、母さんに信綱と高耶君の事を聞いた時は、流石に驚いたがね、散々言われて、まあ、結局その通りだと結論を出したワケだ」
ハハハ、って笑う自分の父親に、直江はすっかり疲れてしまって、ガクゥ、ってきた。
「・・・・・・なら、早く言って下さいよ・・・・・・」
これには高耶も大賛成なんで、高耶ママにウガッって、噛み付く。
「そーだよっ!知ってたんなら言ってくれりゃーイイじゃん!オレ達コソコソすんの、マジ、面倒臭かったんだかんなっ!!」
「いいじゃない、障害があった方が燃えるでしょ?」
「!!!」
「!!!」
サラッと言われた台詞。
でも、これは二人を凍り付かせるのには十分過ぎる。
コノヒト、一体どこまで知ってんの?
しかし、考えてみたら自分達が恋人になったのって昨日の事だ。
それを知ってるのは、どー考えてもおかしい。
「・・・・母さん・・・・あのさ・・・・・」
「高耶は信綱さんのコト、お兄ちゃんみたいに思ってたんでしょ?」
あなた、自分がお兄ちゃんだから、って言われて本当のトコはバレて無いって、分かった。
でも、こんなに簡単でお手軽に解決してもイイんだろーか、何てったって、400年なのだ。
そんな高耶の疑問が分かったのか、直江の母は分かるように説明を始める。
「あのね、400年ずっと、って訳じゃナイの」
「えぇっ?!!」
これは、驚くべき事実だ。
「実は、ね・・・・・・・」
そう切り出して話し出した内容は、ヒョジョーに驚くべき、なおかつ馬鹿馬鹿しいものだった・・・・・・
to the next
2000.10.25