禁色 四 P.20 |
己の考えを、マリーは嘲笑う。
全く、何と言う人生だ。
元々謙信は気に入らない。
考えてみれば、柿崎晴家であった頃から御館様に対し忠誠心など持っていなかった。あの時代、主など渡り歩くものであったのだ、特別な事ではない。
戦に関する天賦の才は認めていたが、あの、偽善ぶった言動を冷ややかに眺めていた事を覚えている。
景虎に対しても、特に尊敬の念など持った事など無かった。逆なら多分にあるのだが。
それでもこうして戦い血を流す人生≠送ってきたのは、愉悦とそして、戦国武将としての矜持故である。それは死んでも、死んでしまった後も尚捨てられない糧≠ネのだ。
マリー……柿崎晴家は、夜叉衆、否、闇戦国全ての誰よりも、その思いが強かった。それが、
「くくく……嗤うしかないわよね」
今はこの状況だ、
互いに思考に沈んでいた笠原とマリーの元に、加瀬と美奈子がやって来た。
「そろそろ帰れ。もう遅い」
「いいわよ賢三さんは帰って、あたしはもう少し飲んでくから」
「おい」
「大丈夫だって、ちゃんと店は閉めてくから……ね?尚紀クン?」
マリーの言葉に、加瀬は横に座る笠原を見た。そして苦い顔で睨む。
「だめだ、もう帰れ」
「いや」
「マリー」
「いや、だって言ってんの。あんた達は勝手に何処でも行って乳繰り合ってりゃいいのよ」
「おいッ」
酔っている所為か、下世話な言葉に加瀬は声を荒げた。暗い中でも赫くなる顔を、マリーは鼻で嗤う。
「賢三さんさぁ、あんたいくつよ。何照れてんの」
「照れ……ッ、違うッ!」
「ああもう、どうでもいいわ。とにかく……美奈子ちゃんも」
「はい?」
「ね? 大事なボォイフレンドに送ってもらったらいいわ。もう帰らないとね」
「はぁ」
不思議そうな顔をしている美奈子の横で、加瀬はまだ苦い顔だ。そんな同僚≠ノマリーは続けた、
「ほら、景虎」
そんな風に。
景虎―――
「え?」
「くッ」
首を傾げる加瀬に、マリーは珍しく焦った顔になる。そしてジッと、加瀬の反応を伺った。
昭和編本です
原作設定とパラレルが混じってます
「禁色 参」の続きでまだ続いています。
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