私は全速で高耶が拘束されている筈の部屋へ走る。
今、自分の見たものは、一体何なのだ?
確かに、あの礼拝堂で彼と会った、

”消えた・・・・・?”

煉瓦で出来た建物に入る私の姿を見つけた教頭が、慌てて側に駆け寄って来る。
それも、血相を変えて。
この老人のこんな様は、短い期間でしか知らないが、初めて見る。
厭な予感が、私の胸中を支配していく。

「直江先生っ!」
「教頭先生、いかがされました?」

走る、などという慣れない行為をしたため、私の前にで止まって息を整えるのに苦労している
何時もは隙無く着こなしている和服が酷く着崩れてしまっているのも、気にならないらしい。

「一体どうしたのですか?」
「大変、なんですっ!・・・・・・・・仰木の・・・・・・」

ゼエゼエ言っている息の下から、必死に言い募った。

「・・・・・・・・亡くなり・・・・・・ました・・・・・・」
「え?」

突然の事で、私は間の抜けた返事を返してしまった。

「・・・・・・仰木の祖父っ、現当主の父親・・・・・っそれに、伯父に当たる人物まで・・・・っ」
「なっ・・・・・・・・?!!」

こんな冗談など、この老人が言う筈が無い、突然の不幸に青褪めている私達の所へ、今度は何度か面識のある色部、という英語の教諭が走ってくる。
この教諭も教頭と同じく、慌てたり取り乱したり、ましてや廊下を走るなどという事をする人物では無かった筈だ、しかし・・・・

「教頭先生っ!!大変ですっ!!」

私の姿も見止めると、軽く会釈をする。

「色部先生?・・・・一体何があったんです?」

眉を顰めて尋ねる教頭に、色部はチラッと私を見ると再び教頭に視線を戻す。

「・・・・事故が・・・・ありまして・・・・・・・」
「事故?」
益々訝し教頭が、先を促す、私はそれを、黙って聞いていた。
厭な、予感

「汽車が・・・・・・品川〜川崎間で、汽車が・・・・・・・それで、仰木の使いの者が・・・・・」
「死んだのかねっ?!!」

教頭が上擦った声を上げているのを、私は何処か冷めた所で聞いていた。
その時、だった

いきなり大きく耳障な爆音に近い音が建物を揺らしたのだ。

何があったのかと窓から顔を出す教頭と色部が息を呑んだのが、背中を見ていた私に伝わった。
何が、と尋ねなくても、分かる。
爆音は、至近距離の雷だ。
表では突風が豪雨を交えて、地上を攻撃している。
突然の、天気の変化だった。

”ただの、変化・・・・・?”

この分だと、嵐が収まるまで誰もこの島から出る事が出来ない。。。。。。。。し、入る事も出来ない。。。。。。。。





私達は





閉じ込められたのだ






悪魔の、意思で・・・・・・・・























               


                 ヨハネ黙示録第14章3

          わたしが行って、あなたがたに場所を備えたら、
          また来て あなたがたをわたしのもとに迎えます。
          わたしのいる所に、あなたがたをもおらせるためです











私が高耶の監禁されている筈の部屋に着くと、見張りの者が誰もいなかった。
いくら鍵が掛かっているとは言っても、これは無警戒過ぎる。
私は他に残っている教諭を探し、鍵を受け取った。
その教諭は始め訝し気な表情をしたが、私が彼に聞きたい事がある、と言ったら割りとすんなり鍵を渡してくれた。

「あの、さっき変わった事はありませんでしたか?」
「さっき?」

私の問いに首を傾げる男に、嵐が来る少し前だと説明する、それは、礼拝堂で高耶と会った。。。,頃だ。

「彼の・・・・仰木の様子に、何か変わった事はありませんでしたか?」
「いいえ、鍵が掛かっていますし、物音一つしていないです、大人しいもんですな・・・・でも、詰問するのは構わないと思いいますが、くれぐれも気を付けて下さい、直江先生」
「はい、分かっています」

これで見張りの責任から解放されたと思ったらしいその教諭は、始めの態度とは打って変わって心良く鍵を手渡すと、そのまま廊下の奥にある休憩場に消えていった。

錠前を外し、小さな音を立てて扉は開く。
元々ただの教諭達の休息の為の部屋であるから、特別厳重に出来ていない。
外では、嵐が唸りを上げていた。

後手で扉を閉め、念の為内側から錠を掛ける。
これで、私と彼は、密室に2人切りなのだ。
その事実を認識すると、背筋に冷たいものが走った。

カツッ、と立てた私の靴音で、高耶は顔を上げる。
部屋の隅に蹲り、膝を抱えていたので、もしかしたら眠っているのかと思ったのだが、どうやら目は覚ましていた様だ。

「・・・・・・・・・ぃ」
「え?」

ギクッ、と身体が揺れた。
今確かに、彼は何か言った。

「・・・・高耶・・・・・・・・?」

何故この時”仰木”では無く”高耶”と呼んだのかは、解からない。

「・・・・・・もう誰も・・・・・・・出られない・・・・・」
「!」

そう言って、彼は嘲笑わう
私は、突然憤りを感じた。

「君、さっき礼拝堂にいただろう?ここから抜け出したのか?」
「何を言っているですか?直江先生。先生だって今鍵を開けたのだから解かるでしょ、ここには錠前が掛かっていて、俺が出られる筈ないじゃないですか」

クツクツ、喉の奥で嘲笑う声が、勘に障る。

「嘘を言うなっ!さっき私と・・・・・君は祭壇の上にいて・・・・」
「いて?」

そう言いながらゆっくり口元を引き上げると、

「!」

あの牙。。。が・・・・・

「それはっ?!!」

手には、取り上げた筈の、銅製の柄のナイフが握られている。
私は後ず退った。

わたしが行って、あなたがたに場所を備えたら、 また来て あなたがたをわたしのもとに迎えます。わたしのいる所に、あなたがたをもおらせるためです

「え?」
「ヨハネの黙示録第14章の一部分です、あぁ、直江先生なら御存知ですね」

クスクスクスクス

「ここに込められている、本当の意味、解かりますか?直江先生」
「本当の、意味?」

この時点で、私は完全に彼に飲み込まれていた。

「何が言いたい・・・・・・早くそのナイフを渡しなさい・・・・・」

押し殺した恐怖を、感付かれない様するのが、今の私にはやっとだ。
しかし、それでもその口元から覗く鋭い牙については、何も訊く事が出来ないでいた。

私は・・・・・恐ろしいかったのだ・・・・・・・

外で唸りを上げている嵐の吠える声が、この部屋の中にのも響いている。
6畳しかない部屋で、高耶はただ座っているだけだ。
その圧倒的な威圧感を背負って。
私は身体が動かない、と同時に、彼から視線が反られられないでいた。

「聖書には4つの福音書があり、その他、マタイ14章、マルコ13章、ルカ21章にそれぞれ終末に関する記事が書かれていますよね、しかし、このヨハネの福音書には終末の記事が書かれていない」
「・・・・・・・・・」

確かにそうだった、家が教会だった為、多少は聖書を読まされていたので、それは知っいる

「でもね、直江先生、これはあるトリックなんですよ」
「・・・・・トリック・・・・・?」

これは、聞き捨てる事が出来ない発言だ。
私は牧師の息子に有るまじき、信仰心の無い人間なのだが、高耶の・・・・・この得体の知れない生き物の言葉に、聞き逃していい所は無い様に思えるのだ。

「そう、トリック」

この時初めて、高耶の表情が動いた。
眉を顰め、忌々しいそうに吐き捨てたのだ。

「・・・遥か昔・・・・・まだこの土地に人間達が現れる・・・・・・・それよりももっと以前・・・・・
この島にある男が住んでいた・・・・・・男は自分を、神、と呼んでいたんです」
「神?」
「そう、人類を創生した神・・・・・・」
「・・・・・」

もっとも、と高耶は嘲笑わらう。

「自分でそう言っていただけなんですけどね」

クスクスクスクス

「男は自分の教えを広めていて弟子もいた・・・・・ヨハネ黙示録の14章、ここで実は弟子達にしか解からない形で終末の言葉を残しているんです。しかも・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

喉が、ひり付く。
私はこの恐ろしい話を拒絶する術を持たない。

「場所を移して、自分が再び降りてくるまで完璧に整えておけ、そう言ったんですよ・・・・・・・・・勿論弟子達は、男が丘の上で処刑され嘆き哀しんだが、その時残した言葉に忠実に男の為に土地を探し、そして来るべき時を待ち侘びた・・・・・・・」

一体何を言出すのだ・・・・この話では、男とはまるで・・・・・・・

「今、先生が考えた通り、ですよ」
「!」

私の頭を読んだ様に、高耶は言う。
その言葉は、私を驚愕させるのに、充分過ぎた。
否、驚愕などと言うものでは無い、足元が崩れ落ちていく、そんな錯覚を覚え、よろめいて壁に凭れ掛かった。

「・・・・・・・何て・・・・事・・・・・を・・・・・・」

高耶は嘲笑わらう・・・・・・・・

それは、彼が纏っていた鮮血の様に、哀しい程美しかったのだった・・・・・・













                                             


                                             2001.3.29

       

      クリスチャンの皆様、これはみちろうが勝手に考えたモノなので、
     寛大な心で笑って読み流して下さい「何言ってんの?コイツ」って(汗)
              邪悪高ぴ・・・・こーゆーの、カワイイ?