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ドカッ



ガラガラガチャーン






派手な音が教室中に響き渡る。

「ぇ……?」

高耶は目の前で起こってる光景を呆然と見ていた。
何ってたって自分の机が引っくり返って、中身が床にぶちまけられてるんだから。
まだ呆然としたまんま顔を上げると、良く知ってるって言うか知り過ぎ!な男がメラメラ憎悪の視線を向けて仁王立ちで立っている。
「…ぇ、っとぉ……」
一体コレは、どうしたモンか―――



まだ、高耶は動けないでいた……














『門脇綾子』は城北高校だけじゃなくって、この辺一帯の有名人だ。
何ってったって、顔がメチャメチャキレーだから。
そりゃもう、TVとかに出てる女優とかアイドルとかには完全に勝ってるし。
はっきし言って、このレベルの美人は一生に何度もお目に掛かれないって程。
背も、モデル並だ。
腰が高くて、膝下が長い、外国人モデルにも張る。
当然モテる、とんでもなく。
オトコ切れは、しない。
それも、当然レベルは超一流、そんな綾子が、珍しく今現在フリーらしい。
と、話はこんなトコからの発端なのだ。
『直江信綱』
コレは門脇綾子の『オトコ版』
そんなとんでもナイ2人が通う城北高校は、今日も見物人(?)の人だかりが出来てるのだった。




「ヤダダメ」
キッパリバッサリ
カケラの躊躇もついでに思いやりも無いお言葉。
「……えぇッ?!」
返って来たアンサーに、直江絶句。
だって直江は思ったのだ、門脇綾子なら自分に相応しい、って。
それに今、女(某企業のお嬢でモデル)と別れたばっかで、(その他モロモロはいるが)それに綾子が珍しくオトコがいないらしい。
これはいい機会だ、と思った。
だからそのまんま、言う。

「俺と付き合えよ」

で、返事がさっきのだ。
まさか断られるって思わなかった直江はその場に固まってしまった。
「……」
この自分を断る女がいるなんて…信じ難いコトなのだ直江にとって。
それが例え『門脇綾子』でも。
「なッ!何でッ?!!」
ショックにカッコ悪く引っ繰り返った声にも、綾子は哀しい程冷静だった。
「だってアタシ、好きなオトコいるし」
と、爆弾発言付。
「えぇ?!!」
これも、信じらんない。
だって今綾子はフリーだ。
ここまで上等な女になると『好きなオトコ=彼氏』って図式が出来上がる。
だって綾子を断る男なんて、この世に存在しない筈だし。
その瞬間、自分的モロモロ事情が頭から吹っ飛んだ直江のコメカミがエイリアンみたくピクピク引きつった。
「だッ!誰だッ!それってッ!!」
「……うるさぁ…」
デカ声に、思わず綾子は耳を押さえてしまう。
殆ど怒鳴りながら訊いた直江に、綾子は耳押さえしながら涼しい顔でサラッと言った、べっつに隠す必要ないし。
綾子は何時までも何処までも、我が道を行くのだ。


「2年5組の仰木高耶」


そして「今日の出汁巻卵はちょっと甘すぎるね」とか言う日常口調でのたまった。
「!!!!!」
直江、絶句
「って事で……バイバイキーン」
フリーズ直江に手をヒラヒラ振ってズラかろうと思った綾子だったが、
「……嘘だ」
と、直江の地を這う地獄な声に、一応律儀に足を止めた。
「マジマジ」
「……」
「あたし『仰木高耶』が好きなんだよ、だからあんたはパス」
「……」
そー言われても、直江には信じ難い。
だって今まで綾子のオトコは皆『大人なオトコ』で、金も地位も顔も何でももってる男達だったから。
それが……高校生?
それも、自分達と同じ学校の。
「……」
一体何が衝撃なんだかよく分からなくなってしまった直江を置いて、綾子はサクサク説明モード。
「ってコトで、アンタとは付き合えないからまぁ、そーじゃなくても直江なんか冗談キツイし、って・……あ?」
振り返った綾子はアレレ?と首を傾げてしまった。
だってそこにあった筈の直江の姿が、忽然と消えてたからだ。
だから最後の言葉は直江の、耳に入っていなかったのは言うまでもない。









「アレ?直江だ」
教室の窓から外を見てた高耶の目に2人の有名人1人、直江が走ってるのが映る。
その姿に思わず、動きが止まってしまった。
「……」
ジ……ッ、と凝視。
校庭の外からは何時も通り、どっか知らない女達がキャーキャー言ってる。
それは何時もの光景でも、直江が必死に走ってるのって考えてみれがメチャメチャ珍しい。
何でも斜に構えてクールな男なのに。
そんな男の姿から目が離せない。
「……カッチョイイなぁ〜」
とんでもなくカッチョイイ直江の姿をドキドキしながらコッソリ見詰めているのは噂の『2年5組の仰木高耶』だった。
そう、この『仰木高耶』は直江が好きだった。
同じクラスになった事はナイ。
勿論アッチは、高耶の事なんか知りもしないだろう。
アッチは有名人、コッチは目立たない一高校生
だから、これはコッソリ想ってるだけで。
片思いで、ずっと心ん中に仕舞っておく気持ちだった筈なのに……





これは一体ナニだろう





入学した時に一目惚れして。
それからずっとずっと思ってた相手が、自分をじっと見詰めてる。
それ所か、
「仰木高耶ってどいつだッ!」
そう大声出して教室に飛び込んで来たんだから。
怒鳴られたクラスメイトは目を白黒させながら、高耶を指差した。
当の高耶はピキピキに塊りと化している。
怒りのオーラをバシバシ発してる直江は、口をあいたまんま固まってる高耶の前まで来ると、


ドカッ


机を蹴り倒して


ガラガラガッシャーン


教科書その他、床にぶちまけられた。
そして冒頭に戻るのだった―――








「……ぇ、っとぉ……」






                           ツヅク