セキララ　３

セキララ
ⅲ

「……ドコ、に…？」
「……高耶…」
譲、溜息。
「……」
お約束かよ、なベタベタ反応の高耶に、綾子は嬉しそうにケタケタ笑った。
「違う違う～、付き合うっつーのはね、男女交際、ってヤツよ、エロい意味の」
「あ、そっか……って！！えぇ～～～～～？！！」
エロ、って何ですかッ？！
「☆●◎■～～ッ」
綾子の爆弾発言に目を白黒さしてる前で、譲は至極冷静だ。
「門脇さん、アンタね冗談ならどっか別のアンタのコト好きなアホアホ男に言ってやってくんない？」
「む」
あからさまに見下した態度とバカにした口調、綾子にそんなコトする男は今までいなかった。
自然綾子の細くて綺麗にカーブしてる眉毛が片方だけ器用にピク、と上がる。
「…ちょっと、アンタ関係ナイでしょ、外野は引っ込んでろ、っつーの！」
「外野はアンタだ、高耶はアンタみたいな脳味噌カスカス女相手にしないよ、もっと弁えて自分に合ったアホーな男と付き合えば？」
「カスカス…」
意味はよく分かんないけど、メチャメチャバカにしてるのはよ～く分かった。
「……」
でも、綾子は思った、コイツは苦手だ。
綾子に話かけられて、光栄、って思わない男はいなかった。
我侭だって何でも通ったし、この美貌をもってすればそれは当然。
だから、
「……高耶…」
攻撃対象を咄嗟に変更。
「う」
ウルウル綾子に見詰められて、だけど高耶はウットリするよりワタワタ慌てた。
…変わったコ……
これが、綾子の高耶に対する感想。
でもま、扱い易いそーだし
「アタシじゃ…ダメ……？」
必殺、泣き落とし。
長ーい睫に作り出した水分が、キラキラくっついてる。
「えぇ？！あ、っと」
「ダメ、なの？」
「そんな……ダメとかじゃ…」
苦し紛れの高耶の言葉に、途端綾子はパッ、っと顔を輝かせる。
「じゃあイイんだ！」
「オイ！アンタ何言ってんだよ！」
それに慌てたのは譲だ。
良く言えば、純粋で人を疑う事を知らない、実際は、ボケボケな高耶が目の前でしっかり丸め込まれて
チョット待った！を掛ける。
「五月蝿い外野は引っ込んでな……今高耶イイって言ったよね？」
「え、あ、待」
何時の間にか譲の後ろから引っ張り出されて、自分よか背が高い綾子に両肩掴まれてをガクガク揺す振られてる。
「あ……う……あ、あ…」
もう高耶は混乱で泣きたい気分だった。
そんな高耶に譲の手が伸びる瞬間、綾子の手がス、と離れた。
そのタイミングたるや、ロナウジーニョのノートラップボレーシュートだ。
ガクガク揺す振られて頭クラクラになった高耶は、急に無くなった支えにその場に倒れ込みそうになる。
「おっと」
で、譲登場。
サ、と腰に手を回してしっかり抱き留めた。
そんな2人にフフフ、って笑うと綾子は足早にドアに向かう。
「アタシ今から、高耶の彼女、だからね！今日一緒に帰ろうね、迎えに行くから先帰っちゃダメだからね！」
「あのぉ…」
って手を伸ばした時には、バイバーイ、って言いながら綾子の姿はドアの向こうに消えていた。

残された2人は、暫く呆然としてたけど、
「…高耶…」
「！」
地を這う譲の声に、高耶は飛び上がった。
ちなみに器用にも垂直飛びだ。
「高耶ぁ」
「ひッ」
その声の余りオドロオドロオーラに小さい悲鳴を上げてしまう。
「…お前…何やってんだよ、それに直江！」
ギクゥ！
「さっきのバカオンナと、直江、何の関係があんだ？もしかしてさっきのアイツのイカレた行動と関係あんのかよ？」
「知らないよッ！」
咄嗟に叫ぶ、だって本当に知らないのだ、ってゆーか、それは高耶が聞きたいくらいだった。
「ホントに知らないんだよぉ…」
「…まぁいいけど……それよりお前マジで門脇綾子と付き合う気？」
首、ブンブンブンブン
「まさか！オレがそんな事出来るわけナイじゃん！」
「オレもそー思う」
「ム」
「だってそーだろ？高耶ってまだ女と付き合った事ないし、それがいきなしあんなのと、無理に決まってんじゃん」
「ムム」
譲は正しい、正しいが、そこまで言われたらいくら高耶でもムッとくる。
一応、オトコノコ、なんだから。
「…そんなの……分かんないじゃん……」
「何か言った？」
「……イイエ…」
「そんな事より、あのオンナマジで授業終わったら教室来るぜ？どーする？」
「逃げる」
即答
当たり前の、トーゼン。
譲もその答えに、満足気に頷いたのだった。

ビーッ、ってブザー音が響いて６時間目の終わりを知らせる。
それを合図に高耶は速攻で、リセバックに教科書を詰め込んで譲に目で合図した。
コックリ頷いた譲と一緒に、ドアの前まで走る。
これまでの一連の行動は流れる川のようで、滑らかでヒジョーにスムーズだ。
高耶なのに珍しい。
が……
「来たわよ～ハニ～！」
『ゲ』
キレイにハモッた高耶＆譲の前に綾子はズンズン歩いて来た。
本日２度目の有名人ご来店に、教室は再び色めき立つ。
「約束したでしょ？高耶。。」
”高耶”を強調して言うと更にザワザワが大きくなったのを、譲は忌々しい気持ちで溜息を吐いた。
明日の皆の反応を予想して、高耶は心の中でソッと涙を拭く。
こんな状況に、勿論譲が黙ってる筈がナイ。
何が言ってやろーと口を開いた、

「……オイ…」

が、

「待てよ」

その声はッ？！

「直江？」
高耶の呆然とした声にドアを振り返ると、
「綾子、お前マジだったのかよ」
そこにはコワーイ顔して立ってる世にもカッチョイイ（見た目だけ）男が、これまた世にもエラソーに踏ん反り返って立っていた。
そんな直江に綾子は振り返りもしないで答える。
「そー言ったでしょ」
「う゛」
ザワザワザワザワ
”ちょっと～！何でオレがこんな目に会うワケ～！”
高耶の心の叫びを聞き取った譲は、ワザワザに紛れて高耶の腕を取る。
今なら視線は全部、直江と綾子に集中している。
逃げんなら今だ！ってヤツで。
「高耶、とっととズラかるよ」
「うん！」
頼りになる親友に、高耶は力いっぱい頷いた。
だけど、世の中そんな甘くない。
コソコソ教室を出て行こうとした２人の耳に、次の瞬間、トンでもナイ！言葉が飛び込んできたからだ。

直江は考える。
これじゃあ、この”仰木高耶”にオンナを取られたコトになる。
そんな汚点を残すなんて、直江には許せなかった。
でも、綾子はどーあっても高耶と付き合う気らしい。
じゃあ、どーする……？

マタマタ綾子から、奪い返せばイイんだ！

そーすれば、フラれた所か、上乗せ得点だ！

阿呆は阿呆なりの理論。。があるらしい。
「ふふふふふふ」
「ふふふ？」
低い声で笑い出した直江に、綾子は怪訝な目を向け
教室のヒトビトは、恐怖の目を向ける。
「残念だったな」
「何がよ」
またまた腰に手を当て、世界一エラソーな態度で世界一エラソーに言い放った。

「仰木高耶は、オレと付き合うんだよ」

――仰木高耶は、オレと付き合うんだよ――

教室は、水を打ったみたいに静まり返ってる。
誰も、オソロシくって、口を開けないのだ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ツヅク