セキララ　４

セキララ
ⅳ

家に帰って来るなり、高耶はベッドにダイヴした。
あれから起こった混乱を思い出して、またまた頭を抱える。
「何なワケ…？」
誰も聞いてない、弱々しい呟き。
「ハァ～」
深いため息が出ちゃうのは、仕様がないコト。
「ど、しよ…」
む～ん、って悶える高耶に答えは出ないのだった。

ペンギンが横切ったのは気のせいじゃあナイかもしれない。
だって教室＆廊下も、皆皆フリーズしてるし。
だから高耶の視界に岩飛びペンギンとか皇帝ペンギンとか入ってきても全然おかしくナイのだ。

「仰木高耶は、オレと付き合うんだよ」

直江の口から飛び出た、世にもオソロシイ言葉。
流石の譲も目を丸くして完ッ璧に固まってたり、する。
今現在、時計が止まってナイのは当の直江だけだった。
長い足でゆっくり教室の入り口まで歩いてくると譲の横で呆然自失してる高耶の腕を掴む。
優しくも何とも無い、ただグイッ、って乱暴にそれを引かれて高耶は前につんのめってしまった。
「わわわッ！」
「帰るぞ」
「わわわぁッ！ちょ、ちょっとぉっ？！！」
そのままズルズル廊下を引き摺られて昇降口まで来てしまった。
そこまで来てやっと、高耶はチョビットだけだけど落ち着きを取り戻す。
「な、な、何なワケぇ？！オレ全っ然！分かんないんだけど！」
高耶は慌てて言うけど、直江、無視。
「おい、ってばッ！」
「……」
自分と付き合う、そー言った
確かに言った。
でもでも！
付き合うって、好きな人同士がするモンだ。
少なくとも高耶はそー思ってる。
でも、直江が高耶を好きなんてとてもじゃナイけど考えらんない。
だって机とか蹴ったし。
それに”どいつだ？”とか言ってたし。
全然高耶の事、知らなかったっぽい。
それなのに……付き合う？
高耶の頭は再びこんがらがる。

その頃教室では、

綾子＆譲、引き続きフリーズ中だった。

靴を履くと、直江は呆然とつっ立ってる高耶の腕を
再び掴んで歩き出した。
一緒に歩く、っつーより引き摺ってる、ってカンジだ。
直江に、腕掴まれてる…？
ここへ来て、高耶はやっと実感してきた。
ずっと好きだった直江と一緒に学校から帰る。
たまに頭ん中で想像したけどまさか現実になるなんて１００％あり得ない、って思ってた。
でも…
「……」
顔が、熱い。
ドキドキしてきた。
腕を掴んでサクサク歩いてる直江のコンパスは高耶とは勿論違う。
直江が高耶を思い遣ってペースを合わせるなんてコトは、これまた勿論ナイ。
小走り状態になりながらも、それでも高耶は結構幸せだったのだった。
で、気が付くと、自分のベッドの上で悶えたいた。

「ど、しよ……」
ピピピピピピ
「わわっ？！」
自分の携帯の音にも驚いちゃう程今の高耶は混乱していた。その上、
「…譲、からだ……」
着信を見て、蒼褪めてしまう。
フワフワしてた気分が、一気にサーッ、って汐の満ち引き状態。
怒られる
絶対怒られる。
でも出なかったら…
「もっと怒られるし…」
自分の携帯を恐る恐る持っちゃう経験は、余り人には無いだろう。
ドナドナ高耶は、ゆっくり通話ボタンを押してみた。
「…はい…」

『た～か～や～っ！！！』

デカイ声に、思わず耳から離してしまった。
「……」
『高耶ッ！聞いてんのかよッ！』
「聞いてるって…」
『今どこ！』
「え？家だけど」
『マジかッ？！』
「うん…」
『無事かッ？！何もされてないかッ？！金取られて無いかッ？！殴られて無いかッ？！ヘンなトコ、触られてないかッ？！悪戯されたないかぁ～ッ？！！』
「……」
あの何時も冷静な譲がこんなに支離滅裂になっちゃう程、自分のコト心配してくれてる。
そう思ったら高耶は完全に落ち着きを取り戻した。
「平気だって、何とも無いよ」
『……ホントか？』
「ホント」
『ならイイ…でも……明日お前、大変だぞ』
「え？」
『あれから教室、大変だったんだぜ？お前は直江と消えちゃうし、門脇綾子は怒り出すし』
「……」
サーって音がしたのは、自分の血とかそのへん。
考えてみれば、当たり前だ。
でもそれを想像して高耶は蒼くなる。
「……休もっかな」
『ん～～～、２，３日休んだ方が落ち着くかもなぁ』
煩い譲が休め、なんて言うってコトはよっぽど騒ぎが酷かったってコトだ。
だから高耶はキッパリ返した。
「休む、絶対休む！」
『そーだなー、ま、明日連絡するから』
ピ、と携帯を切ると、またまた頭を抱えるコトになってしまった。
「む～ん…」

高耶の、明日はドッチだ―――

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ツヅク