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高耶はキッチリ律儀に三日学校を休んだ。
でも、いい加減行かなくっちゃなんない。
これ以上休むのはマズイし、って言う以前に高耶はバリバリの真面目優等生クン!なのだ、地味なんだけど……
何より譲にも、今日は行く、って言っちゃったし。
コレは何より、高耶にとって重要事項なのは400年前からのお約束、だ。
でもでも、
「ヤだな…うー、気が重いー……」
行きたくない、メチャメチャ。
譲が言うには、騒ぎは少しは収まったらしい。
それでもやっぱし足取りが重くなっちゃうのは仕方無いコト。
「ぅが〜」
ベッドの上でジタジタ。
実は直江に引っ張られて帰った日の夜、門脇綾子から、電話があったのだ。
何で直江と帰ったの、とか今度遊びに行こー、とか。
でもまだ頭ん中が飽和状態だった高耶は、何て返事したか覚えてナイ。
それも、行きたくない理由の一つだ。
でも、
ピンポーン
チャイムは非情に鳴るのだった―――






「よぉ高耶」
「痛……おはよゆずるぅ」
玄関のドア開いた、と思ったら、すかさず譲のチョップが高耶の額に炸裂した。
軽く、だからそんな痛くないんだけど。
「ホラホラ、ボケボケしてないで遅刻するぞ」
「分かってるって…行ってきま〜す」
家の中に向かって大きい声で言うと、高耶は譲と並んで歩き出した。
3日間休んで、当たり前だけど直江から何か言ってくるとかは全然なくて。
自分から付き合う、って言ったのは確かに直江だったから、実は高耶はコッソリ期待していたのだ、ほんのチョビット、だけど。
何か言ってくるかもー、って。
だから密かに落ち込んでる。
譲が言う通り、直江の性格は褒められたモンじゃあナイって高耶だって分かってる、でも、

好きになっちゃったんだもん…

そっと溜息。
「譲?」
そんな風に心の中でイロイロ考えてた高耶はいきなし譲が道端で足を止めたんで、不思議に思って名前を呼んだ。
そこで譲の口から飛び出た台詞に、凍り付く事になってしまう。


「好き、なんだろ?」


ギクゥ!!


「なななななななななな何、がぁ?」
余りにタイムリーな譲の発言に、高耶は冷静な声を出せなかった。
「ななななな……ゆゆゆゆゆゆゆゆ…ッ」
思いッ切り”ヨロレヒィ〜”な裏返った声。
モロ不審、極まりない、ってカンジだ。
目がヒヨヒヨ泳いでる高耶を見て譲は深〜いため息を吐いた。
「…あのさ…お前、バレバレなんだけど…」

バレバレとわ?!

身に覚えがあり過ぎる高耶は何か言い訳しよーとしてるんだけど、口をパクパクさしてるだけで人間語が出て来なかった。
「…ゆ、ゆゆ…バ…バ、バ…ッ!」
真っ赤になった次は蒼白。
で紫になったりオレンヂになったり、高耶の顔色信号はイロイロ忙しい。
そんな高耶に、譲は深ーい溜息を吐いた。
「だーかーら!お前ってば直江のクソ馬鹿が好き、なんだろッ?!」

ビシィッ

「!」

指をビシッ、と突きつけられて、高耶はグウの根も出なくって、ただ、
「グゥ」
って、言ってみたり、した……









「止めとけ」
簡潔な一言をのたまったのは、通学途中にある、児童公園。
このまんまじゃあヤバイ、って思った譲が、高耶を引っ張って来たのだ。
もう3日休んでるんだから、もう一日サボッたって今更じゃん、てのが、譲談。
そんなコトよか、高耶を言い包め…じゃなくって、
説得しなくっちゃなんない!ってヤツだ。
何故ならそれは、譲の使命&六道界の規則なのだから。
でも、
「……」
意外な事に、キツく言っても、高耶は何時もみたいに頷かない。
「高耶…」
一転して譲の優しい声に、高耶はやっと顔を上げた。
黒い黒い目がウルウルに潤んで、ソノ気もあの気も無い譲の心臓が、ドキン、と跳ねた。
『高耶の素顔』を知ってる数少ない身をしては、それもまあ、自然の摂理と同じで仕方の無い事なのだ。
コホン
気を取り直し、
「分かってんだろ?アイツがどーゆー男だか。性格世界で六番目位に悪いぜ?下半身に人格無いし、女見ればイれるコトしか考えてないしさ」
イヤ、これはかなり譲の私怨入ってる発言だ。
「お前、話た事も無かったじゃん、何で好きになったんだ?」
「……」
コレを訊かれるのは当然の成り行きだと分っていても、高耶は口篭ってしまう。
「高耶」
だが、譲の追求の手から逃れられるワケないのだ。
暗〜い気持ちで高耶は、恐る恐る口を開いた。
「……・……」
「え?」
「……」
「たーかやー…」
ス、と譲の目が細くなって、高耶はこれはもうダメ!と覚悟を決めて、今度こそはっきり言い放つ。
「……カッコ良かった、から…ッ!」
ちょっと、ヤケ気味。
だけど、その答えは譲の思考を数瞬固まらせる効果はあったらしい。
「……」
コイツ、面食いだったのか……
「……高耶……」
「……」
ギュ、とキツく目瞑ってる高耶を眺めながら、直ぐ立ち直った譲はこっそり溜息だ。
一体今朝で何度目だ?と思わない事もない。
けど、今はそれドコじゃあないのだ。
高耶だ高耶。
コイツ結構マジっぽい…
譲は焦った。
多分直江ってヤツは、要はイれられればイイ、って思ってるかもしれない。
だったら、
”高耶!速攻で食われちゃうじゃん!!”
普通のオッサン臭い男子高生だったらパスかもしんなしけど
高耶はカワイイ、しかも、かなり!
オマケにマズい事に、直江にメチャメチャハマッてる。
押し倒されたら、抵抗なんか出来ないに決まってる。
その時譲の脳裏に浮かんだのは―――



真っ赤な椿の花がポトッ、と雪の上の上に落ちる映像、だった―――




「ダ〜〜〜〜〜ッ!!!ダメだダメだダメだダメだぁ〜〜〜!!」




「譲ぅ?!」
いきなし立ち上がってガシガシ頭を掻き毟りながら喚き散らす譲に、高耶トーゼン、ビビる。
「う〜う〜う〜う〜〜〜〜ッ!!」
暫くガーガー喚いていた譲はピタッと動きを止めて、ガシッ、と高耶の肩の上に手を置いた。
「な、何ィ?」
目は完全に据わってる。
「振れ」
一言、簡潔。
「ふぇ?」
「アイツ、とっとと振っちまえ」
「……」
「分かったな?」
「……」
「高耶?」
だが高耶は、俯いて黙ったまんまになってしまった。
「高耶?」
「・・・・・・・・・」
「高耶?」
肩に置いた手に力を込めると、高耶の頭がガバッ、と上がる。
そしてハッキシキッパリ。
「ヤダ!」
「高耶ぁッ?!」
思わぬ高耶の反抗(?)に、今度は譲の声が、引っくり返った。
「だって!だって!オレ好きなんだもん!直江、好きなんだもん!直江が折角付き合ってくれるって言って……ヤダもん!オレ、振るのッ!!」
「高耶……」
初めて見る頑なな高耶の様子に、譲はすっかり途方に暮れて言葉を失ってしまったのだった。
しかし、直江ばっかしに気を取られて高耶も譲も大事、ってゆーかヤバい事を忘れてる。
そして災害は、忘れた頃にも忘れなくてもやってくるものだ。
ほら、こんな風に、


「アレレレ〜?見〜付けた!高耶ってば、こんなトコにいたんだ〜アタシ、迎えに行ったんだよ〜」


『ゲ』
思わず、ハモる。
「…門脇…さん…?」
「違うって、綾子だよ、綾ちゃんって呼んでよ」
朝の公園に、とっても似合ってナイ光景。世界レベルな超イイ女そんなのが、腰に手を当てて仁王立ちしてる。
「あ、綾…ちゃん…?」
呆然としてる高耶の腕を掴むと強引に引っ張って歩き出してしまった。
こーゆートコ、直江と変わんない。
ワタワタ抵抗出来ない高耶を見て、譲は瞬時に脳内会議を始める。
そんでもって、直ぐに会議終了。
「そーだね〜、2人は付き合ってるんだから一緒に学校行っても当たり前だね」
「へ?」
止めてくれると思ってた譲の思わぬ発言に、高耶はビックリ顔で首だけで振り返った。
「そーそー、成田君、アンタもやっと分かってくれたんだ」
今までサボる!とか言ってなかったけ?ってツッコミする余裕は高耶には、ナイ。
しかも敵(?)に勝った上機嫌な綾子はグングン高耶を引っ張ってってしまう。
遠くなる高耶の悲鳴を聞きながら、譲は肩を竦めバイバイ、と手を振った。
「ちょ、ちょ〜ッ!譲ぅ〜!」
「ま、今だけだけどね…」
後ろでヒッソリ悪魔の笑みを漏らす譲に、高耶も綾子気付かないのは言うまでもなかった。







                           ツヅク