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時間は少し戻る





「美弥!」

場所は城北”女子”高校のとある一年の教室。
デカい声で教室に飛び込んで来たのは、高耶の妹美弥のダチだ。
ランチを食べ終わった昼休みの後半、美弥はマニキュアを塗ってる手を止めて自分を呼んだダチを見た。
「亜由美煩い」
でも亜由美はそんな美弥のウザそーな顔なんか目に入ってないっぽい。
珍しくバタバタやってる亜由美は美弥の机までやって来てバン、て、手を付いた。
「美弥……」
良く見ると亜由美はダッシュで来たみたいで、ダークブラウンに綺麗にブリーチ髪の毛とかクシャクシャになってる。
髪型作り、に命を掛けてるこの女にしては珍しい、と言うか何と言うか。
この、髪の毛を無駄に気にするダチのこんな態度、
何かスゴい事があったって物語ってる。
ゼーゼー言ってる亜由美の背中を摩りながら美弥はワクワクしながら顔を覗き込んだ。
「何よぉ、何かあったの?」
ワクワク
暢気に訊いてくる美弥に、今度は吠えたのは亜由美の方だ。
「何!じゃないって!!アンタの兄貴ッ!!」
「え?お兄ちゃん?」
兄貴=高耶
こんな場面で何故高耶の名前が?
「兄貴が何さ」
確かにこの亜由美は高耶と何回か会った事があった、家に遊びに来た時とか。
そん時は確か、亜由美は高耶の事を”カワユイ”って言ってのだ。
ボサボサの髪、今時あるかよ、って感じの黒ブチ眼鏡
ボーッとした態度。
ハッキシ言ってダサダサっぽい高耶の長い前髪に隠されたカワユさを見抜いた亜由美の鋭さに、内心ビビッたのを思い出す。
なので自然、美弥は警戒モードになった。
バカにしてもドついても、可愛い可愛い兄貴なのだ。
「何よ〜、アンタまさかお兄ちゃんと付き合いたいとか言うんじゃないでしょーねぇー」
低い声は、まるで地獄の使者。
ブラックサバスでも聞こえてきそうだ。
そんな思いッ切し胡散臭い目で見られた亜由美は
ブンブン、勢い良く首を振った。
「バッカ!違うって!!付き合ってんのはアタシじゃナイよッ!」
アタシじゃない?
「あ゛?」
話が見えない。
「だから!直江さんッ!」
益々もって、意味不明。
「直江って……あの直江?何でいきなし直江が出てくんの?」
当たり前だけど、この辺で直江を知らない女子高生はいない。
当然城北女子高校でも誰でも知ってた。
亜由美は今、高耶の話してなかったっけ?
「アンタね、分かるよーに話してよ。アタシ日本語しか分かんないんだからさ」
呆れ顔の美弥とデカい声張り上げてる亜由美、何時の間にか教室中の視線を集めいた。
「何何?今”直江”とか言ってなかった?」
「ええ?何?!直江さんどーかしたの?」
ワラワラ集まってくる女達に美弥はウザそーな顔になるけど、亜由美はそんなモン目に入ってないらしい。
興奮は徐々に上がり、テンションも高くて美弥は溜息吐いた。
「あ〜も〜外野は黙ってろって、で?お兄ちゃんがどーしたって?」
「……アンタの兄貴……」
ここで一旦言葉を区切る。
滅多に見ない亜由美の真剣な目に、美弥はイヤ〜な予感に眉根を寄せた。






「直江さんと付き合ってんだってッ!!!」
















足取りが重い。
ポテポテ歩く美弥の気持ちは、南極の氷の塊くらいは重かった。
イヤ、雨季のサバンナを縦断するカバのレベルかもしれない。
あの後の騒ぎを思い出したくなかった……


――直江さんと付き合ってんだって――


亜由美の叫びと共に教室は、水を打ったよーに静まり返ったのだ。
でも、次の瞬間、


「キャーハハハハ――ッ!!」
「アハハハハ―!何言ってんの―!」
「マジな顔してアホな事言ってないでよ―!」

 ゲラゲラゲラゲラ

爆笑の渦に包まれたのだった。
しかーし、
「マジだってッ!!」
その数人の爆笑よりもデカい声で亜由美が叫んだ。
それがあんましデカい声だったんで、またまたシーン、ってなる。
教室中の注目の中、亜由美は目を据わらしてゆっくり
でも重々しくもったいぶって話始めた。
何時にない雰囲気に、周りのテンションも上がってくるってもんだ。
「今城北のコからメル来たんだけどマジなんだって……直江さんが自分で美弥の兄貴捕まえて、皆の前で宣言したんだってさ……」
血走った目はとても冗談に見えない。
ってコトは、
「…………マジ、なワケ………?」
亜由美、無言でコックリ。




「ウッソ〜!!
あの女好きな直江さんが―――ッ!!」
「信じたんないィィィィ―――!」
「キャ――――!!!」



絶叫再び

「……」
そんな中で美弥は一人、サクサクカバンにバッグに入れてとっとと早退したのだった。
勿論狂乱のジョシコーセー達がそれに気付く筈も無いのだ。














ムカムカムカムカ
低空飛行の気分の中、かなりランクの高い女子高生の仏頂面はイヨーに迫力があった。

直江が高耶と付き合ってる

それが本当だったらマジでイヤだ。
何時もボケボケの兄貴をバカにしてるけどそれでもやっぱし密かに”カワユイ”って思ってるのだ、妹は。
それがあのバイキンマンに……

「……ムカつく……」
実は美弥は、直江と寝た事があった。
クラブで声を掛けれられて、そのままホテルに行ったのだ。
直江は有名だから直ぐ分かったし上ランクの女しか相手にしない、ってのも有名だったし。
美弥は自分が門脇綾子程じゃあナイけど、しょっちゅうスカウト受ける位は可愛いって知ってる。
綾子と比べるのはバカバカしいし、アッチは次元が違うんだから。
で、思ったのはヒマだったし直江だったらセックス上手いだろーし”損”は無くても”得”はある、って思って付いてたのだった。。
至近距離で見るならイイオトコに越したことはナイのだから。
当たり前だけど直江なんてクズに本気になる程美弥は阿呆じゃナイ。
精々ヒマ潰しに利用してやった美弥だった。
そんなトコが同じだったのか結構気が合って何回か寝た。
携帯買い換えた時面倒クサイんで、アドレス消したのだが。
あれからクラブとかで何回か会ったけど、お互いに、よお、とか挨拶して酒奢らせる位になってた。
で……


「何で……お兄ちゃんが出てくんのさ……」


イライライライラ

これは問い詰めてハッキリさせなければ!!
メラメラ怒りとムカつきに燃えた美弥は段々と哀れ高耶を待ち受ける為に家路を急いだのだった。







                           ツヅク