6
「……ぅ、ん?」
シーツに頬を擦り付け、高耶は目を閉じたまま咽の奥で唸り声を上げてみた。
冬は寒い、だからベッドの中が一年で一番幸せなで。そんな幸福を味合うと再び眠りに落ちようとした高耶だが、小さく鳴る警鐘がそれを赦してくれなかった。
「う?」
それに違和感を覚え、意識を覚醒していく。喉が、痛いのだ。声もおかしい。それに、
「ん?」
シーツの匂いと硬さが何処か、何時もと違う気がした。
何これ
「……ぁ」
瞼が重い、重くて開き難いのだ。これは腫れているのかもしれない。
「……」
擦りながら何とか瞼を開いてみた。ひしひしと押し寄せてくる危機感に押されながら。そのままゆっくり躯を起こし、
「ッ?!」
鋭い痛みに、そのままベッドに逆戻りしてしまった。
それは同時だった、記憶の波だ。
「あ…」
痛みは脳天まで響き、高耶は一瞬声も出ない。
「あ、ぁ…」
知らず、震える躯を抱き締めてしまう。それしか高耶には、出来無かったから。
震える躯を抱えそれから、どれ位経ったのか、
「具合は」
「ッ」
声が唐突に降ってきた。
「直江ッ!」
声は擦れていたが、そんなもの構うものか。
ガバッ、と毛布を跳ね飛ばし、高耶はドアの前に立つ男を睨み付ける。
「おまえ……」
ギリギリと、鋭い視線を直江に投げ付けた。
「謝りませんよ」
「ッ」
冷淡な言葉に、息を呑む。そんな直江の言葉に呆然と幼い顔を晒している高耶に、直江は薄く笑った。それは酷く哀しい笑みで、容易く高耶の胸を突き刺した。
それは高耶の記憶に確かにあるものだ。
だけど何処で、何時?
「……」
「直江……」
そんな顔をして男は、ゆっくりと口を開くのだった、
「愛してる」
と。
「―――――え」
アイシテル
言葉が耳に届き脳に達すると、高耶は惚けた様に男を見詰めた。そんな顔をすると、益々子供の様に見える。とても妻子がいるとは思えなかった。
愛して、る?
「な、ぉ……?」
怒りは完全に放置されてしまった。そんなもの軽く吹き飛ばす言葉を直江は、高耶にぶつけてきたのだ。
「え……ぁ…」
驚愕に言葉を紡げない高耶にクスクス笑うと、直江はゆっくり近付いて来る。そのままベッドの横に立ち、そっと黒くクセの無い髪を撫でた。
「ッ」
直江の手が触れた瞬間、高耶の肩が跳ねた。それに一瞬直江の手が止まったが、抵抗しないのを確認するとゆっくりゆっくり、大きな手は髪を撫でた。指と指の間から、柔らかいそれがサラサラと流れ手に指に心地良い感触を与えている。
「仰木さん……愛してる…」
「……オ、レは…」
犯された、この男に。
殺されても仕方が無い非道な行為、なのに、
「俺はあなたが欲しい」
「……」
「高耶」
「ッ」
初めて名を呼ばれ、背筋に何かが走る。それは確かに快感、と言う名のもので。
「だから抱く」
「なッ」
「これからも何度でもずっと」
「直江ッ!」
悲鳴が上がっても、直江の表情は動かない。
「抱き殺してやりたい」
「……な…」
眸の表面には静寂を敷き。
「俺の腕の中で、あなたは死ねばいい」
声に欠片も感情は入っていない筈なのに、高耶には分かってしまった、
「高耶」
盛る感情(想い)がその深層部分で、燃え狂っているのを。
「……は…ッ」
高耶は無意識に喘いでしまう、喉はカラカラだった。
息が、出来無い
何なんだ、これは
こんな感情知らない、知りたくない
何もかもを焼き尽くす、凶暴な恋情。否、これはもう『恋』なんかじゃない。これはまるで――――
「凶器、だ…」
「……」
呆然と呟く高耶の躯を、大きな腕が抱き留める。抵抗は既に、綺麗に抹殺されてしまった。
「愛してる」
「……」
完全に思考を手放した高耶は、そっと眸を閉じる。
「俺のものだ」
そんな言葉を遠くの方で、聞いたきがした。