ビー マイ コーチ! 1 P.44 |
空港に降りて思ったけど、やっぱり涼しい。酷暑の日本から来たから、余計にそう感じる。
だって成田を出た時は確か、37℃あったんだ。なのにここサンクトペテルブルクの今の気温、多分20度にも届いてない。
うん、快適。
「ふー」
大きく伸びをしたら、体がコキコキ鳴った。
前回この街を発ってから、まだ1ヶ月も経ってない。なのにこうして深呼吸すると、漸く来たぞ、って気持ちになる。
だってこの街は―――
「……」
少し感慨に浸っていたら、名前を呼ばれた気がして顔を上げた。
僕の名前は勝生勇利24歳、どこにでもいるフィギュアスケート選手だ。だけど、一つだけ普通じゃない事があって……
「ユーリ!」
やっぱり!
空港内に、大きな声が響き渡った。
「ちょッ」
あれってッ?!
ちょっと! ヤバいってッ!
僕を呼ぶ彼は、ここサンクトペテルブルクですごく有名だ。いや、フィギュア好きな人なら、世界レベルで有名人だ。
「ユーリ!」
それなのに、笑顔で手を振りながら、こっちに走ってくるんだから! ほら、皆見てるよ〜
「ユーリ〜」
「うわッ」
どん、と抱き着かれて、僕は背中から引っ繰り返りそうになってしまう。
「おっと」
「……もう、危ないよヴィクトル」
細身に見えて、筋肉しかない彼に、片腕で支えられてしまう。
「ごめんごめん、嬉しくてさ」
本当に嬉しそうに笑うから、僕もこれ以上怒れないんだ。多分、分かってやってるんだろうな〜
「やっとまた会えた」
そんな風に言われたら、胸が熱くなってくる。
「……うん」
大袈裟だな、と思うけど、僕も同じ気持ちだから……
そう、これが『普通』じゃない事。
何と、既にレジェンドなんて呼ばれてるヴィクトル・ニキフォロフは……僕のコーチだったりするのだ!
もう今更、って言われそうだけど、僕としては未だに、凄い事になったなあ、って思ってる。
ヴィクトルは競技復帰したけど、僕のコーチと併用の状態なんだ。
「……」
ずっと憧れていたヴィクトルが、本当に僕のコーチなんて、ほんと、これって凄い事だよね! こうして顔を合わせていると、しみじみ実感してしまう。
「ユーリ? どうしたの? 時差ボケ?」
「ううん、大丈夫。迎えに来てくれてありがとう。ヴィクトル、忙しいのに」
彼は本当に多忙だ。それが分かっているから迎えも断ったのに。
「だめだよ」
両手で頬を包むと、ヴィクトルは少し怖い顔になる。
「ユーリ、忘れたの? この前の春、橋の上で大コケしたの」
「あー……」
うん、覚えてるよ。って言うか、言われて思い出した。
今年の四月の終わり頃、僕はヴィクトルの住むサンクトペテルブルクへ向かった。
何とか市街地まで辿り着いたんだけど、やっぱり気持ちが急いてたのか、気が付けば橋の上を走っていた。
向こうの方に、ヴィクトルとユリオがいて、その姿を見たらもう! そりゃ全速力になるよね。
で、僕は2人に辿り着く直前に、盛大に転んでしまったのだ。
怪我が命取りになる僕らだから、ヴィクトルは凄く心配してくれた。ユリオは大笑いしてたけど……
「思い出した?」
「……うん」
にっこりと、綺麗な笑顔で微笑まれればもう、何も言えない。
ユーリ!!! on ICE 本です。
終わっていません続いてます。
表紙はとこさま、ありがとうございます!
ヴィクトル×勇利
甘め、一応R18.
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