GOOD MORNINIG!

                           HAPPENING 1
               






「おはよう御座います、高耶さん」

「オハヨ、直江」



何時も通りの朝は、何時も通りの挨拶で始まる。

外を見ると良く晴れていて気持ちイイ朝だったけど、それを堪能する暇なんか無い。
ギリギリって、訳じゃ無いけど、余裕がある訳でも無いのだ。

でも、並んで駅まで歩くこの時間を、高耶は結構気に入っている。
何故なら・・・・・・・・・

高耶はこの隣を歩くオトコ・・・・・・直江に、ホレてたりするからだった・・・・・・・・・・








仰木家と直江家、昔っからのお隣さん同士のこの両家の間には、これまた昔っから深〜い確執があった。
古くは関が原での西軍、東軍。
この時は、仰木家が東軍で、直江家が西軍。

勿論二百数十年、栄華を誇ったのは仰木家で、外様に甘んじたのは直江家。

で、次は幕末。
この時は仰木家は幕府側で、直江家は倒幕側。

結果は知っての通り、倒幕側がウィナーだ。

明治、大正、仰木家は貧乏士族、直江家は金持ち華族。

しかし、戦時中は両家とも、当時の当主は中々の商才の持ち主だったらしく、軍相手の事業で成功し、まあまあの財を成した。

そんでもって、戦後の平成は・・・・・・・・・

両家とも、ごくフツーの、一般家庭、になっていた・・・・・・・・




しっかーし!普通になったからって、全部がそうとは限らない。

「高耶、直江家の人間は敵だ、絶対気を許すなよ」
「信綱、仰木家の人間は敵だ、絶対気を許すなよ」

『仲良くなるなんて、持っての他!!』

高耶も直江も、お互い両親にこう言われて、育ったのだ。

しかし、直江は幼い頃からそんなアホーな事は、全く気にしていなかった。
だから・・・・・・

「どうしたの?何で泣いてるの?」

何故かお隣同士が長い事続いてる”天敵仰木家”の小さな男の子が泣いているのを見て、こう声を掛けたのだ

「お兄ちゃん、直江の家の人?」
「そうですよ、どうしたんですか?」
「・・・・パパのゴルフの金のヤツ、壊しちゃったの・・・・」
「金・・・?ああ、トルフィー。大丈夫、ちゃんと謝れば許してくれますよ」
「・・・・・ほんと?」
「・・・・・少しは、怒るかもしれないけど、でも、正直に言えば、直ぐ許してくれるから」
ね、と優しく言う少年に、まだ5歳の高耶はコックリ頷いた。でも、再び瞳に涙が盛り上がってくる。

「・・・・・・・・オレ、怒られちゃう・・・・・・」
「何で?」
「だって、パパ、直江んチの人と喋っちゃダメだって・・・・」
「・・・・・・えっと・・名前は?」
「たかや」
「じゃあ、高耶さん、高耶さんはオレの事キライ?」

そう言うと、高耶は慌てて首を横に振る。
そんな小さな子供に、直江も自然に笑みが毀れた。

「じゃあ、これは二人だけの秘密、ね」

『秘密』

この言葉は子供にとって、魔法の言葉なのだ。
何でも無い事でも、この『秘密』が付くと、途端にキラキラするから不思議だ。

「秘密?」
「そう、オレと高耶さんだけの秘密」

そう言うと、子供は綺麗な瞳をキラキラさせて、力一杯頷く。

「うん、オレとお兄ちゃんの秘密だね」

仰木高耶・・・・齢5歳にして、恋に落ちた瞬間だった・・・・・・










                            ***










あれから十年、幼稚園児と高校生は、高校生と社会人になっていた。




両家の間は、相変わらず天敵状態だけど、二人の”コッソリ仲良しさん”はずっと続いている。

「・・・・ただの”仲良しさん”じゃな〜・・・・」
高耶のボヤきが耳に入ったのか、直江が顔を覗き込んできた。

「なっ!何でもないっ!!」
「?そうですか?」
そう言ってまた、前を向く直江。

高耶はチラッと隣を歩く男を盗み見る。

”あ〜、朝っぱらからイイオトコ、だよな〜さっすがオレの直江”

あれから十年。
何の進展もナイ状態に、高耶はいい加減痺れを切らしていた。
まだまだお子様だった頃は良かったが、目出度く高校生になった今日この頃、高耶は思春期真っ盛り。

今までの『お友達』状態じゃあ、もうガマン出来ない!!

そう思うヤりたい盛りの青少年は、モンモンとした毎日を送っているのである。
”でも、どーすりゃイイんだ・・・・”

高耶が高校に通うようになり、朝、二人の家を出る時間が同じになった。
同時に家を出て、家から見える所では離れて歩き、見えなくなった所で、並んで一緒に駅まで行くのだ。

直江と触れ合える唯一の時間。
だから、かったるい筈の朝も、高耶にとっては至福の時間帯だった。
譲、曰く、
「不毛だね」
なんだけど・・・・・・・・

だから高校生になった時、高耶は決心したのだ。

”ゼッテ〜直江とラブラブになってやるっ!!!”

ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ

”心臓、うるさいっ!!”

実は、今日こそはデートに誘おうと思って家を出たのだが、口から出るのは当り障りの無い日常会話ばかり。
でも、こんなんじゃイカン!て、思い切って・・・・・・・

「あ、あのさ、今度の日曜、ヒマだったりする?」

緊張のし過ぎで声が、裏返った。
ヨロレヒィ〜みたいだ・・・

仲良しだからって、わざわざ一緒に出かけた事なんかなかったし、まあ、考えてみれば歳の離れたお隣さんと一緒に出かけるなんてヘンだし、だから余計緊張するのだ。

案の定、直江はビックリ顔で、高耶を見てる。
でも、言っちゃったモンはナシには出来ない。
そんな思いに後押しされて、後先考えず突っ走る。

「あ、のさ、オレヒマだから、どっか行かねェ?」

ドキドキドキドドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ

黙り込んでしまった直江に、高耶の不安は増す。
「直江?」




”高耶さんっ!!”

直江は信じられなかった。

ずっと思いを寄せていた相手が、事もあろうに誘ってくれたのだ!!

両家のバカバカしいイザコザは、直江にとってどうでもいいモノだった。
数百年の確執、だろうが何だろうが、そんな事自分には関係無い。

まだ小さい子供だった高耶が自分に懐いてくれるのが、とても嬉しかった。
その子供はどんどん成長し、何時の間にか、眩しい存在に変わったのは、何時の事だったか、
だけど、こんな思いは叶う筈無いし、第一高耶に迷惑だ、そうに決まってる。

だから、直江はこの気持ちは永遠に胸に仕舞っておくつもりだった、なのに・・・・・

「なお、え・・・・・?」

不安そうに問い掛ける大好きな相手に、直江は慌てて答えた。
「えっええ、ヒマです。オレもヒマなんです、丁度。何処か行きましょうか」

高耶には特別な意味など無いと分かっていても、弾む声を押え切れない。

「マジ?」
途端に嬉しそうになる高耶は、もう、メチャメチャ嬉しっ!!てヤツだ。

「じゃあさ、何処行く?オレ何処でもいいけど」
「じゃあ、日曜までに決めておきますよ」
「うんっ!!」

そんな会話をしてる内に駅に着いてしまったようだ。
何時も思うが、朝のこの時間は本当に短い。

「でも、バレない様に、ね」
直江は念えお押す。
高耶はコックリ頷いた。

こうやって、朝仲良く歩いてる事を知られただけでも、大事なのだ。
それを、休みに一緒に何処かに出かけるなんて、父親にしられたら・・・・・・・
想像するだに、オソロシー・・・・・

”なんか俺達、ロミオとジュリエットみたいだなー、あ、寛一お宮だっけ”

それ・・・・全然違う・・・・・・










「譲ぅ!!聞いてっ!!」

生活態度は決してイイ、とは言えないのに朝だけはキチンと登校する理由を唯一知ってる親友は、浮かれまくった高耶に、すぐ”直江絡み”だと分かった。

「直江さんと、何かあったのか?」
分かっちゃいるけど、の世界だ。

「デートっ!!!」
「え?」
「今度の日曜、直江とデートっ!!すんだっ!!!」

「・・・・・ふ〜ん・・・・・」

「何だよー、驚かねーの?」
だから何?って感じの譲の態度に、高耶はブーッ、と膨れた。
「だって、デートっても、直江さんの方は、そーゆーつもりあるワケ?」

「・・う゛・・・・・・・」
痛いトコロを突かれて、高耶はうっ、と詰まってしまった。
自分でも分かってるのだ、直江がただの”仲良しのお隣さん”として付き合ってくれるのなんて。
でも、自分にしたら、大いなる一歩な訳で・・・・・

「イイんだよっ!デートはデートなのっ!!」
「まあ、イイけどね・・・・・」

「何着てこっかな〜」
既に譲の話なんか聞いちゃいない高耶は、フンフ〜ンて、ブランキーの”赤いタンバリン”なんか鼻歌歌いながら自分の席に戻って行く。

「・・・・・・疲れる・・・・・・・」

これは、譲の心からのボヤきだった・・・・・・












                              ***










やってきました日曜日!って事で、待ちに待ったデート当日、高耶は昨夜殆ど眠れず寝不足状態だったが、そこは若さでふっ飛ばす。

平日より早く起きてる高耶に、リビングで新聞を読んでいた父親は目を丸くした。
しかし、ヤケに機嫌の良い息子に、何を思ったのか、飛んでも無い事を言い出した。

「高耶」
「ん〜?」
聞いてる様で聞いて無い、そんな高耶を向かいのソファーに座らせる。

「何だよ、オレ出かけるんだけど」
「そんな事より、近所の人からヘンな事を聞いた」
「何?」
「お前が、直江のせがれと歩いていた、しかも楽しそうに、と」

”ゲゲ〜ッ!!!”


思いもしなかった突然の宣告、
高耶の頭はそう簡単には、回らない。

「え・・・え、っと・・・・・・」
そんな様子の高耶に何を思ったか、
「・・・・どうやら、本当、らしいな・・・・・・」

「し、知らねーよっ!人違いじゃねーの?」
「・・・・・・・・・」

上擦った声、泳いじゃてる目線、ソワソワしてる身体・・・・・
それら全てが事実を物語っている。

「・・・・・・許さんぞ・・・・絶対許さんぞ、高耶っ!!」

ここに至って、もう誤魔化せないと悟る。
後は・・・・・・・

「うっせーなっ!!」

開き直るしか、ナイ

「何でオレと直江が仲良くしちゃダメなんだよっ!そんな昔のバカみたいな事に、俺達巻き込むなよっ!!」

「バカとは何だ!バカとはっ!!先祖代々、直江の人間が敵なんだ、お前も仰木の家に生まれたんだから分かるだろう!!」

あんまりな理不尽な理屈に、高耶もキレまくる。

「分かんねーよっ!!そんなモン!」

そう怒鳴りながら、家を飛び出したのだった・・・・・













                                                             to the next

                                               2000.10.12
      
                    フツーの直高の、フツーのラブストーリー(どこが?)書きたくなったんだけど
                                    何か、どっか、違う・・・・・・・・