Spaghetti Life







■前編■


最近、直江の様子がおかしい。
何かおかしい、って言われれば上手く説明出来ないんだけど、
どーもおかしい。


「高耶さん、オレ今日は遅いから夕飯いりません」
「・・・・・・・何で?」
「ちょっと、約束があって」
「約束?誰と?」
「・・・・・・高耶さんの、知らない人ですよ」
そう言うと、オレの返事も待たないで、出て行く。

・・・・・やっぱり、おかしい・・・・・・





双子の弟の直江は、
小さい頃は、そりゃー可愛かった。
薄茶の髪と瞳、白い肌、
クリクリした目はホント天使みたいだったんだ。
オレの後をチョロチョロしてて、オレがいないと直ぐ泣き出す。
「高ちゃんが一番好き」
って言って、オレの側から離れない。
オレも、そんな直江が可愛くって、
いっつも一緒に遊んでた。
そんな生活が突然終りを告げたのが、
オレ達が小学校4年の時だった。
両親の離婚、そしてオレ達は苗字の違う兄弟になった。
それは、オレ達の両親がアホーな事なやってくれちゃったから。
オレ達が小学校の頃離婚、それから、
何を思ったのか、3年前の中一の時、再婚。
前に離婚した時変わったオレの苗字は、
面倒臭いからそのまんま、だから違う。
それまで手紙でしか会話してなかった、
3年振りに再会した双子の弟。
その時の衝撃を、オレは今もよーく覚えている。
小さくで、痩せっぽっちの直江が、オレを”見下ろして”いた。
あの弱っちい身体は、
見るも無残(?)に変わってた。
中学1年にして、170を越す長身。
それに附属する様に、
肩幅のガッチリした、出来あがりつつある身体。
これだけは変わらない、
薄茶の優しい瞳がオレを映している。
そう、もう中学だってのに、160無い身長に華奢、
とした言いようのない、情け無い身体。
女みたい、って訳じゃナイけど、
直ぐ『カワイイ』とか言われちゃうガキヅラ。
その瞬間、オレの”兄の権威”が、音
を立てて崩れ落ちたのは、言うまでもナイ。
でも、オレに再会した時の直江は、
ホントに嬉しそうだった。
だからオレも、結構感激とかしちゃって、
ウルウルきちゃったんだけど。
直江とお父さんがオレお母さんの家、
って言っても昔4人で住んでたんだけど、
そこに引っ越してきて直江はオレの通う中学に転入してきた。
そん時、学校中のオンナの目の色が変わったのを、良く覚えている。
まぁ、ハッキシ言って、直江は見た目、
パーフェクトだったから当たり前ったら当たり前なんだけどさ。
見た目に加えて、
小さい頃に既に出来あがってたフェミニスト精神も健在で、
そこら中あのカッチョよくって優しいに笑顔を振振り撒いてりゃ、当然だ。
二卵性双生児のオレ達は全然似てないくって、
双子に見られた事は無いんだけど、周りの連中から

「お前ら、ホントに双子?」

って言われまくって、流石にウンザリした。
でも、相変わらず直江はオレに懐いてて、
オレ達は上手くやってたんだ。

そう、ここ最近までは・・・・・





「オイ、何処行くんだよ」
今日も夕飯食った後、直江は外出しようとしている。

お母さんとお父さんは、
お父さんの転勤で2人で京都にいる。
息子2人を捨てて、もう一回新婚生活をやり直す、
とか言ってににこやかに旅立ってたのは、
オレ達が高校入ってすぐだった。
『スッゴク成績のイイ』直江が、『成績普通』のオレと同じ高校行ってるのは、
偏に直江がガンガンオレのスパルタカテキョ、になったから。
あん時の直江は、恐かった。
いっつも皆に優しいけど、
オレに対しては、ホントに”上辺だけの優しさ”じゃなくってホントに優しかったから、
ビシバシ鍛える直江に内心怯えたのんだ。
でも、これも一重に、オレと一緒にいたい!
って一心の直江だったから受け入れた。
オレとしては、同じ高校なんて考えてもいなかったから、
直江が同じ高校行くって言出した時、マ
ジビックリしたんだし。
「オレはどうしても高耶さんと同じ高校、行きたんです」
って、小さい頃と同じ、真っ直ぐな目で見詰められて、
結局オレはほだされてこーゆー結果になった。
まぁ、本来のオレのレベルから見て、
かなり上の学校に行けたんだから感謝しなきゃなんないんだろーけど、
分かってたけど高校入ってから授業についてくのに、やっとだ。
直江が色々教えてくんなきゃ、
余裕でダブッてるよ、絶対。
だからやっぱし、
無理しないで自分のレベルに合ったガッコ、行けばよかった、
とか思っちゃうけど、それを言ったらあんなに一生懸命教えてくれた直江に悪いので、
心の中にひっそり潜めてる。
オレって、優しい兄貴だよな。
そんな必死コイてるオレを尻目に、
最近の直江の挙動不審は一体何だ?
挙動不審、とはちょっと違うかもしんない、一言で言えば、
「ちょっと、用事が」
そう、オレを避けているのだ・・・・・・










「なぁ、最近元気ないじゃん」
千秋に言われて、オレは机に突っ伏してた顔を上げる。
千秋は中学ん時からの、オレのダチ。
「え〜?別に普通だぜ?」
「嘘吐け、お前ため息多すぎ、
傷心の美少年、って感じで押し倒したくなる」
「アホ、何だよその美少年、て・・・・
そんなら直江の方じゃん」
「あぁ〜?アイツが”少年”って柄かよ、
何年ダブッた?ってカンジじゃん」
「・・・そこまで言う?」
確かに直江の見た目は落ち付いてて、
大学生に見られる事も多い。
絶対双子に見られない原因は、
顔が全然似て無いのもあるけど、
オレがよく中学生に間違われるガキヅラって所為もある。
「なぁ、直江と何かあった?」
「・・・・・・・」
どうしてコイツはこう、鋭いのか。
「オイ、言ってみな、相談に乗ってやろう」
偉そうに言う千秋だけど、ホントは心配してるのを知ってる。
まぁ、殆どは面白がってるんだろーけど。
「・・・・・・・・アイツ・・・・・・オレの事、最近避けてやがる・・・・・・」
「はぁ?マジ?」
あのブラコンがぁ?って目を見開いてる千秋に、
オレはまたまたため息一つ。
確かに、それまではいっくら女に誘われてても、
オレが一番優先されてて、オレを見る目が一番優しかったんだ。
口ではウザイ、とか言ってても、
実は嬉しかったのに。
確かに直江は中学ん時から色んな女と取っ替えひっかえ付き合ってたみたいだけど、
オレへの態度は変わらなかった。
でも、最近家にいないのは、
女優先になったからなんだろうか。
別にもう高校生なんだから弟と仲良くしなくったっていいんだけど、
夜誰もいない部屋に1人てのは、結構淋しい。
黙り込んだオレに何を思ったのか、
千秋はミョーに納得してる顔になった。
「じゃあよ、今日お前んチ行ってイイ?」
「え?」
「明日の土曜、ガッコ休みじゃん、
泊まり行っていいだろ?」
そうだった。
どうせ直江は今日も夜帰って来ないだろう、
だったら1人でいるよか千秋がいた方が楽しい。
「いいよ、どうせ直江今日も帰ってこないし」
「でも、さっき見たぜ?」
「あぁ、学校は休まないんだ」
「ふ〜ん、女と派手も遊んでも、学校はちゃんと来るワケね、
優等生は違うねぇ〜」
言葉に刺があるのは、
千秋が直江を嫌ってるからだ。
でも、ドッチかっつーと、直江の方が一方的に千秋を嫌ってて、
千秋がそれに付き合ってるってカンジ
誰にでも外面いいのに、何で千秋にだけ無愛想なんだろ?
「じゃあさ、帰り俺オレんち寄って、それからお前んチ行こうぜ」
「うん、分かった」










* * * * * * * * *










学校が終わって、一緒に千秋の家に行った。
千秋は着替えて、歯ブラシとか、共有出来ないものをバックに入れて、
今度はオレの家に向かう。
夕飯はオレが作った。
千秋に出来るとは思ってないし、一御客様だから。
家事はお母さんと2人だけの時からやってたから、
料理は中々の腕前。
オレが直江に勝てると特技の一つ。
それに、直江はオレの作る飯を、いっつも美味しいそーに食べて、
「高耶さんの作る飯が、一番美味いです」って言って、
その笑顔がガキの頃の天使みたな直江とダブるから、
余計に色々食わしてやりたくなる。
ホラ、オレ一応兄貴だし、弟の面倒みなくっちゃ。
「はふぅ〜、お前料理美味いなぁ〜」
ダイニングのテーブルで、
千秋は満足そうにお茶を飲んでる。
当たり前だ、誰が作ったと思ってるんだ。
「高耶ぁ〜嫁にくる?」
「バッカじゃねぇの!何が嫁だ!」
千秋のアホ発言にオレは呆れて頭を軽く殴ると、
すかさずその手を取られてしまう。
「わぁっ?!」
そのままソファアの上で軽い格闘(?)をしてる時だった。
「ん?」
オレの動きが急に止まったんで、
千秋が怪訝そうにオレの見てる方を見上げた。
「ゲ」
これは、千秋の発言。
その驚愕がオレにも伝染する。
だって、
「・・・・・・アレ・・・・・・?なお・・・・ぇ・・・・・?」
帰って来ないと思ってた直江が、
無表情でオレ達を見下ろしていたんだから。
何故か気拙い空気の中で、
オレはそれを打破したくって無理矢理明るい声を出す。
別に悪いことしてた訳じゃないのに、
直江の冷たい顔に、オレの声は上擦った。
「あ・・・・・お前飯食った?ハンバーグだから、直ぐ焼けるぜ?」
「・・・・・・・いりません・・・・・また直ぐ出かけます」
「・・・・・・・・分かった・・・・」
オレの気落ちした声が気拙い空気を、更に滑っていった・・・・・・






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                                     2001.4.23

      

                   

最近家族モノが多いカモ。
従兄弟、親子、ときて、今回双子・・・






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